過去インタビュー詳細 平成25年度vol8

H25年度インタビュー第8回

エキはエコへ。『エコステ』を旗印に進めるJR東日本のCO2削減対策-車両や駅舎の省エネ化、新しい鉄道林・森づくりで環境にやさしい鉄道へ-

●入江 洋(いりえ ひろし)さん

 総合企画本部 経営企画部環境経営推進室課長、環境コミュニケーショングループリーダー、博士(経営学)。「鉄道の省エネや環境技術は進歩し続けています。そんな片鱗をエコステや電車、列車の利用で気づいてもらえるとありがたいですね。」

●春原 尊史(すのはら たかひと)さん

 総合企画本部 経営企画部環境経営推進室、環境コミュニケーショングループ。「地道にみんなで薄く小さく積み上げる。省エネは全員がそうした意識を継続するしか手はないと思います。」

【東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の概要】

東京圏を中心に、1日に約1,680万人の旅客を運ぶJRグループ最大の鉄道会社。営業キロは、新幹線約1,100km、在来線約6,400kmで合計約7,500kmに及び、駅数は1,688駅。社員数は59,370名(2013年4月1日現在)。鉄道等による運輸業のほか、駅スペース活用事業、ショッピング・オフィス事業等を展開。JR東日本が使用する電力は、自営の火力発電所と水力発電所で約6割を賄い、残りの約4割が購入電力。ほかに軽油・灯油、都市ガス等を含めて膨大なエネルギーを消費しており、このため同社では長年にわたって地球温暖化防止に取り組んでいる。

JR東日本は、「低炭素杯2013」において審査員特別賞 最優秀ソーシャル・イノベーション賞を受賞しました。駅に様々な環境保全設備(エコメニュー)を導入し、駅におけるCO2排出量の削減を図る『エコステ』という、新たな取組みが評価されての受賞でした。鉄道会社として、どのように省エネ・節電を進めてきたか、稼働し始めた『エコステ』の様子を中心にお聞きしました

――最初に、JR東日本のエネルギーの使われ方の特徴について教えて下さい。

入江 鉄道会社ですから、やはり列車運転用のエネルギーが一番多くなります。2012年度の実績では全体の76%を占めています。ほかに駅と車両センターで21%、残り3%が本社・支社ビル等での消費です。

――電車や新幹線は省エネ化がどんどん進んでいると聞いています。

民間活動インタビュー 第8回

入江 洋さん

入江 そうですね。昔、国電で走っていたウグイス色の山手線に比べると、いま走っているE231系という山手線は電力消費が約半分以下にまで下がっています。電車の減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに換える「回生ブレーキ」や効率的なモーター制御を行う「VVVFインバータ」の導入によるものです。

新幹線では国鉄時代の顔が丸い200系と呼ばれるものから、今のE2系という鼻の長い車両に替って7割弱の電力で走っています。最高速度が上がっているにも関わらず、使用エネルギーは少なくなる技術開発が進んでいます。このように、2012年末までに全車両の90%以上がこのような省エネ型車両に切り替わっています。

――非電化区間はどうでしょう。

入江 栃木県の烏山線はディーゼル車が走っていますが、2 0 1 4 年から蓄電池駆動電車「ACCUM(アキュム)」の導入が決定しています。この電車は車両に大容量の蓄電池を搭載して、電化区間では通常の電車と同様に架線からの電力により走行すると同時に充電し、非電化区間では蓄電池の電力で走行し、折り返し駅等に設置する専用の充電設備において走行に必要な充電を行います。これにより、CO2排出量は40%にまで低減できます。このほか、小海線では世界初のディーゼルハイブリッド車両が既に導入済みです。

――このような取り組みで、全体としてCO2排出量はどのくらい削減されたのですか。

入江 1990年と2012年を比べると、輸送量が約4%増加しているのに対し、CO2は276万トンから233万トンに減り16%の削減になっています。

――車両の省エネ化とともに、駅の省エネ化を積極的に進めていますね。

入江 とくに東日本大震災以降、節電や省エネに対する関心が高まっています。鉄道は他の交通機関比べて単位輸送量当たりのCO2排出量が少なく、環境にやさしい輸送手段だといわれていますが、JR東日本のエネルギー消費量の総量は多いため、当然CO2を減らす努力をしていかなければなりません。それに駅は非常に多くの人が利用する場所ですから、こうした場所で実際に省エネへの取組みや環境対策を見ていただくことが大切だと思います。

――それが『エコステ』に繋がるわけですね。

入江 ええ。省エネや再生可能エネルギーなど、さまざまな環境保全技術を駅に導入する試みです。私どもは『エコステ』モデル駅に取り組むに当たり4つの柱を立てました。「省エネ」「創エネ」「エコ実感」「環境調和」です。一歩進んだ省エネ化の推進、太陽光発電など再生可能エネルギーの積極的な導入、お客様が「エコ」を実感できる施設の整備、加えて、人と環境の調和により活気ある駅を創出することです。

――つい最近、『エコステ』の京葉線・海浜幕張駅を見学させてもらいましたが、実際にエコステとして稼働している駅はどのくらいあるのでしょう。

民間活動インタビュー 第8回

こんなにあります
四ツ谷駅のエコな取組

民間活動インタビュー 第8回

ホーム屋根には
コケ緑化

民間活動インタビュー 第8回

シースルー型
太陽光パネル
自然光を取り
込み太陽光で
発電

春原 現在まですでに「四ツ谷駅」「平泉駅」「海浜幕張駅」の3つの駅が稼働していますが、その第1号が中央線・四ツ谷駅です。四ツ谷駅は最初のモデルでしたので、とにかく考えられる対策は全部実施してみようということで、17種類のメニューを導入しました。太陽光発電、LED照明、屋上庭園や擁壁緑化、空調設備の高効率化、高効率変圧器、節水トイレ、自然換気システム等々、さまざまです。

――駅では様々な機器に電気が使われていますね。稼働してからの効果はいかがですか。

春原 建物の空調や照明・コンセントに加えて、改札機や信号通信、エレベーター、エスカレーター、それにキオスク・売店など、ほとんどが電気を使用しています。2012年度のCO2排出量は2008年度比で35%の削減となりました。

――「平泉駅」と「海浜幕張駅」はいかがでしょう。

春原 2012年3月の四ツ谷駅に続いて6月に東北本線・平泉駅の『エコステ』モデル駅としての使用を開始しました。エコステにも其々のテーマを掲げようということで、「創エネ」をテーマにして、ゼロエミッションを目指したのです。太陽光パネルを敷き詰め、太陽光発電と蓄電池だけでどこまで駅を稼動させられるか、という試みです。

実際にどうだったかというと、平泉は東北ですから冬に雪が降ったりすると効率的な発電は難しいのですが、夏場はほとんど100%近く太陽電池と蓄電池だけで賄えました。これまでの実績は、開始からの1年間で201日間と、3分の2近くの日数でゼロエミッションを達成しました。(当初の目標は1年間で170日間のゼロエミッション)

――海浜幕張駅は、線路わきに太陽光パネルが並んでいたり、駅舎の側面に風車が設置されたりしているので、ここが『エコステ』だということがすぐにわかりました。

民間活動インタビュー 第8回

縦型の風力発電を採用、
手前は光ダクトの取組口

春原 京葉線の海浜幕張駅は2013年の9月に使用を開始したところです。千葉県の東京湾岸沿いですから風の強い地域です。そこでまず風力発電、駅への設置ということで安全面を考慮し縦に回る風車を使った発電機を設置しました。それと地中熱利用換気システム、太陽光採光システム、光ダクトが特徴的です。

 

民間活動インタビュー 第8回

改札正面に見える化モニタを設置

民間活動インタビュー 第8回

京葉車両センターに設置
されたメガソーラ
(出力1,050kW)

駅改札のコンコース内のスクリーンは「エコステ」の工夫をわかりやすく動画で紹介していますので、駅を利用される方には少しでも足を止めて見ていただけると良いですね。

また、京葉車両センターには、弊社では初となる大規模太陽光発電設備(メガソーラ)出力1,050kWを設置しました。発電した電気は、車両センターで消費するほか、弊社の配電線を介して鉄道運行に活用し、弊社のCO2排出量を削減しています。

――今後の「エコステ」の予定はあるのでしょうか。

入江 JR東日本は現在支社が12ありますが、まず1支社1駅ずつ「エコステ」モデル駅を作る予定です。

それとは別にいま力を入れているのは駅舎で使う電気の「見える化」です。駅ごとに使っている電力量がいまどれくらいなのか、モニターでわかるようにする取り組みです。いくらハード的にモデル駅を作ったとしても、たくさんの駅舎があるわけですから、実際に駅で働く人たちが節電や環境対策に積極的に取り組まないと全体としての効果は出てきません。どのくらいの効果があるか見えないと人間はなかなか長続きしませんので、駅ごとにきちんと測定し、これを「見える化」していこうということです。今年度では約200駅の設置を予定しています。

――駅舎だけでなく、所有するビルの省エネにも力を入れていると伺いました。

入江 東京都環境確保条例の、通称、トップレベル事業所に、弊社グループのサピアタワー、グラントウキョウノースタワー、グラントウキョウサウスタワー、JR品川イーストビルが認定されています。

また、国土交通省の主導するCASBEE(キャスビー、建築環境総合性能評価システム)で、JPタワーとJR神田万世橋ビルが最高評価の「Sランク」を取得しています。鉄道輸送ばかりでなく、こうした面でも省エネや環境対策に積極的に取り組んでいくことが、社会貢献とともにテナント様、ひいては弊社グループ全体のメリットにも繋がっていくと思います。

――「低炭素杯」のプレゼンでは、鉄道林について触れられていました。

入江 現在、列車や線路を自然災害から守る鉄道林が、約4,000ha、580万本あります。今まではスギ等の単一の樹種が植えられていましたが、鉄道林はそれぞれの地域の環境資源でもありますから、これから20年間かけて、土地本来の種を混植させて生態系として持続可能なものにしていこうという「新しい鉄道林」、いわゆる生物多様性の取組みも始めています。また、鉄道林だけでなく、その土地固有の樹木を植えて森を再生する活動である「ふるさとの森づくり」を2004年から始めています。さらに、地域ごとの植樹活動として「鉄道沿線からの森づくり」に取り組み、この20年間で約31.5万本植えてきました。

その他、こうした取組みを次の世代を担う子供たちに伝えていこうということで、鉄道博物館と連携した夏休みの「環境にやさしい鉄道講座」を開催したり、また、小規模ながら小学校等へ出向いて授業をする、いわゆる「出前授業」も実施しています。

このように様々な取組みを行っており、一見何の変哲もない駅であっても着実に進化していま
す。そのことを思い出して、電車や列車を利用してもらえるとありがたいですね。

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