企業の生産活動や我々の生活から排出される温室効果ガス。
それが要因となって生じている地球温暖化現象などの「気候変動」問題に、今世界は立ち向かっている。その対策として最も主要な方法が、再生可能エネルギーなど温室効果ガスを排出しないエネルギー利用への転換。
日本の温室効果ガス排出量のうち、エネルギー起源のCO2排出量は全体の約86%に上る。
出典:資源エネルギー庁
そうした再生可能エネルギーへの転換を加速させるため、2014年から「RE100」という世界的なイニシアティブが始まった。ネスレ、イケア、NIKEなど世界の名立たる企業が216社(2019年12月時点)加盟し、企業行動で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーとすることを目指し、それを宣言している。
こうした国際的な再エネ推進の潮流を受けて、日本でも「再エネ100宣言 RE Action(アールイーアクション)」が発足した。企業・市民社会・公共セクターが一体となって、RE100が対象としない主体でも「再エネ100%」に向けたイニシアティブに参加できるよう新たな枠組みを形成している。今回はこのイニシアティブの事務局を務めるグリーン購入ネットワーク(GPN)の金子氏に、再エネを含む環境に配慮した製品・サービスの選択についてお話を伺った。
――再生可能エネルギーだけでなく、様々な環境に配慮した製品・サービスの情報提供などに取組まれているかと思います。団体の活動内容についてお聞かせください。
金子 「グリーン購入ネットワーク(GPN)」は、1996年より環境に配慮した製品・サービスを選択するグリーン購入の普及活動を展開している団体です。主には、環境面で考慮すべき重要な観点を紹介する「GPNグリーン購入ガイドライン」を作成し、製品ごとに環境に配慮した購入を実践するためのポイントについてリストアップしています。またガイドラインの内容に沿って環境に配慮した製品・サービスを紹介するサイト「エコ商品ねっと」を開設し、グリーン購入を実践するための情報提供を行っています。現状でも14,000点以上の情報掲載がありますが、さらにカバーする製品・サービス領域を広げていきたいと考えています。
これから「石鹸・洗剤」製品の環境情報も掲載予定とのこと(2020年2月現在) 出典:エコ商品ねっと
――日本では、まだ一般の消費者がこうした環境情報を参考に買い物をすることが浸透していないようにも思いますが。
金子 仕事柄「どうやったら環境に配慮した製品・サービスが選ばれるか」ということは常に考えているのですが、「環境に良いものだから買いましょう」と言ってもなかなか実際の消費行動には結びつかず、一番苦労しているところです。ただ、例えばハイブリットカー、それからLED照明など、環境面も意識した上で選択されているものはいくつか現れていますね。またそれ以外でも、一般的に節水につながる商品や、節電につながる商品は、自然と選ぶ人々が大半ではないでしょうか。だから、「環境に良いものを選ぶ」は、思ったより身近な選び方になっていると思います。
加えて、これから環境への配慮も含めて消費選択が普及して欲しいものとして、「電気」に注目しています。「電気そのものには色がない」と言われるようにどういった発電方法でも電気は電気なので、栽培方法に左右される食材とは違い、その質自体に差は生じません。ただ、どうせ同じお金を払うのであれば、より良い選択を考えてみて欲しいですね。そのためには、まず選択するための情報が必要ですが、それが圧倒的に届いていない。「電気を選べる」ということは皆さんテレビコマーシャルなどを観てご存じだと思うのですが、どういった選択肢を持って選んだら良いか分からず、手続きが面倒だと感じている人も多いのではないでしょうか。その結果、現状では「電気を選択する」ということが浸透していないのが課題ですね。
2016年から家庭向け電力も自由化し、誰でも電気を選べるようになった。東京都では、自然エネルギー由来の電気を共同購入する「みんなでいっしょに自然の電気」キャンペーンを実施した。 出典:みんなでいっしょに自然の電気
こうした消費選択の普及は非常に難しい課題ですが、オピニオンリーダーやインフルエンサーの方々が「私も再エネ電気を選んでいるよ」と発信してもらえると、若い世代を中心に認識が変わっていくのではないかと考えています。今の時代は、テレビを見ない人も増えてきているので、テレビコマーシャルだけでは届きにくい層もいるでしょうし、新聞の購読も減っているので新聞広告だけでも不十分でしょう。おそらく各個人が尊敬していたり、SNSでフォローしていたり、応援している人、ともすれば自分にとても身近な人が、一番影響力を持っているのではないかと感じています。
――電気と言えば、そもそも再生可能エネルギーが足りていない、という話もあります。環境に配慮した製品・サービスが揃うことと、消費選択が浸透することは、どちらが先に生じるべきものだと思いますか。
金子 私がこれまでグリーン購入ネットワーク(GPN)で活動して一番感じたことは、やはり「情報が届いていない」ということです。こうした消費選択の話をすると、消費者サイドからは「選びたいと思っても、そのための情報がどこにも表示されていないじゃないか」とお声を頂きます。一方で、製造・販売に関わる事業者サイドの話を聞いた場合には、「消費者がそうした情報を求める声は届いてこない。環境情報を表示したところで本当に売り上げにつながるんですか?」と。これでは「卵が先か、鶏が先か」という話になってしまいます。しかし、こうした消費選択の変化はやってみなければ生じないので、まずは情報開示することで一歩踏み出すことができると考えています。少なくとも情報を欲している消費者が必要な情報を得られるよう、しっかり情報基盤を整えることが事業者側の役割だと思います。
近年は色んなテクノロジーが開発されて、商品のパッケージ自体に記載がなくても、QRコードを読み取って製品情報をスマートフォンで確認できるようになっています。今後は、製品画像を写せば、コードなしでも情報取得が可能な仕組みも出てくるのではないでしょうか。スーパーに買い物へ行った際に、手元のスマホで撮影するだけで原材料情報や、栽培方法の情報、産地情報、あるいは製造・使用に掛かるエネルギー量の情報なども見られたら、消費者の選択の幅はいっそう広がるでしょう。アレルギー表示と同じように環境情報も身近になったら、環境に配慮した選択行動も一般に浸透していくと思います。そんな風に、情報を欲しいと思う人に必要な情報を届ける方法自体の進化にも注目しています。
また最近は、特にエネルギーの自給自足に関連して地域で経済を循環させていくことが考えられていますね。今まで地域の外からエネルギー燃料などを調達してきたため、地域のお金がどんどん域外へ流出していましたが、それを地域内で循環させようとする流れには注目しています。環境省では「地域循環共生圏」という経済や資源の循環のあり方を推進していて、都市と地方の間でも連携しながら上手くエネルギーや人々が行き来することによって、共に住みやすい地域になっていくというビジョンはもっと進めていくべきだと思います。
――消費行動という観点では、一般消費者に加えて行政・企業の調達行動も含まれると思いますが、こうした調達のインパクトをどのように考えていますか。
金子 行政・企業も消費行動を行う主体の一つです。コピー用紙や文具、印刷物など、一般の消費者よりも大きなロットで購入するため、それだけ大きな影響力を持った消費主体と言えますね。そうした中で、行政・企業の購買行動(調達)における環境への配慮の動きも活発になってきており、例えば近年は海洋プラスチックに対する問題意識の高まりから、使い捨てのプラスチック製品をなるべく調達しないように配慮する団体も増えてきているのではないでしょうか。
地方に行けば行くほど、行政の調達行動が地域のマーケットに与える影響は大きく、購買力が一番ある団体になっています。そのため、行政が環境に配慮した製品・サービスを選択することは、大きなインパクトがあります。ただ行政では、自分たちの判断ですべてを決めることはできず、「グリーン購入法」などの法律や条例、あるいは議会を通して決めることが必要です。こうした行政を動かすためには、ルールや役割を理解した上で説明する必要があると考えています。一方、企業も行政と同じく大きな社会的影響力を持った団体と言えます。また企業は、行政と比べると調達行動における判断は自由ですね。ではどのような原理で動くかというと、自社のビジネスにとってプラスになるかどうかという点は大きいでしょう。その点を押さえて理由付けをすれば、企業は動きやすいと感じています。
例えば先の電気の選択の場合、行政では、自治体としての地球温暖化対策に係る行動計画を策定していることから、その枠組みの元で行政自体が調達する電気の選択についても理由付けを支援することができます。また企業では様々な考え方があるものの、大きくはビジネスチャンスになるか、あるいはビジネスリスクになるか、といった2つの行動のインセンティブに大別できます。電気の調達において再生可能エネルギー100%を目指すことは、企業のブランド価値を上げ、自社の取引や人材の獲得につながるため、例えばそうした点をプッシュしてみる。一方、リスク対応のためにも排出削減目標を立て、計画的に取組む企業も増えています。特に大企業では、自社のサプライチェーン(物品調達等における取引先など)まで気候変動対策を求める動きも出始めており、結果的に中小企業に対しても、そうしたサプライチェーンの担い手として同じように排出削減目標や気候変動対策への取組を求められる時代を迎えています。そうした情報発信も行いながら、グリーン購入を「自分ごと」として受け止めてもらい、自ら動き出すきっかけ作りに貢献したいと考えています。
――企業が再エネ電気の調達など「グリーン購入」を自分ごととするために取組まれていることはありますでしょうか。
金子 昨年10月に、グリーン購入ネットワーク(GPN)、イクレイ日本、公益財団法人地球環境戦略研究機関、日本気候リーダーズ・パートナーシップの4団体で、自治体・教育機関・医療機関等及び、消費電力量10GWh未満の企業を対象とした、使用電力の再エネ100%化宣言を表明し、共に行動を示していくイニシアティブ「再エネ100宣言 RE Action(アールイー・アクション)」を発足しました。4団体で協議会を設置し、その中で当団体は主に事務局としての機能を務めています。
先行して始まった「RE100」と異なり、生協や病院、学校、非営利団体、そして行政など多様な主体が参加できるイニシアティブとなっている。 出典:再エネ100宣言 RE Action
国際的な再エネ100%へ向けたイニシアティブとして「RE100」が先行して発足していますが、同イニシアティブは消費電力量が10GWh以上の企業のみが対象となっています。日本では、協議会メンバーの日本気候リーダーズ・パートナーシップがこちらの日本窓口も担っていますが、その中で対象外となる企業や行政といった主体からも同様のイニシアティブへの参加を求める声が届けられていました。こうした声を可視化できないことは非常に勿体無いと考えています。
「RE100」も同じですが、「これだけの主体が再エネを求めている」と意思表示をすることによって、再エネを売る側、作り出す側を非常に活性化させています。今、再エネ100%の電気サービスメニューを販売している企業は複数出てきていますが、数年前までは2社程度しか無かったんですよ。それによって選択肢も広がりましたし、良い影響が出てきていると感じています。また「再エネ100宣言 RE Action」には、神奈川県、さいたま市や久慈市といった行政の方々に参加してもらっています。自治体は、電力消費において非常に大きな需要家で、そういった意味でもインパクトは大きいですが、加えて地元企業への影響力もあると感じています。実際に自治体の参加表明後に、その地域の企業からイニシアティブ参加に関する問い合わせが来ています。
また「RE100」が対象としてきた大規模需要家は、元々非常に単価が低い料金メニューで電気を購入してきたため、再エネに切り替えるにあたって経済性も追求することが難しいこともあります。一方、「再エネ100宣言 RE Action」に参加する中小規模の需要家の方々の中には、電気料金単価が再エネ電気の買取単価よりも高い場合もあり、再エネ100%に向けた取組みは経済的にもメリットを生み出しています。こうした情報も届けていくことで、電気の需要と供給の双方で再エネ推進を後押ししたいと考えています。
――再エネ電気の需要側と供給側を結ぶために取組まれていることはありますか。
金子 たくさんの再エネを求める声を、再エネを作りたい・売りたいと思っている主体とマッチングさせることが重要だと思っています。そして、こうした需要家と供給側の間を行き来する情報が足りていないと感じています。例えば、私たちが買い物をしようとした時、楽天やAmazonといったサイトで欲しいものを調べられますし、価格.comで検索すればより安く購入するための情報も得られます。しかし、再エネで同じように情報を得て調達したいと考えても、そうした機会が整備されてない。売りたい・作りたい事業者の方々は、需要家サイドとつながっていません。そこのパイプを繋ぐ役割を担っていきたい。
現在「再エネ100宣言 RE Action」では、インターネット上でこうしたマッチングを行うサービスを準備しています。需要家側のニーズを可視化し、逆に供給側のサービス情報を需要家に届けるプラットフォームとして機能すれば、と考えています。東京ではオフラインでもそうした機会があるかもしれませんが、なかなかそうした機会に顔を出すことが難しい地方の方々に、ぜひご活用頂きたいです。
――昨年IPCCの「1.5度特別報告書」が発表され、2030年までの10年間がターニングポイントだと言及されています。これから10年間の気候変動対策におけるポイントは何でしょうか。
金子 パリ協定の「1.5度目標」達成へ向けても、やはり再エネ推進が近道だと思います。10年かければ再エネの割合は大きく増えるでしょうし、脱炭素社会に向かう直線距離というか、ストレートな選択肢だと考えています。
そのためにも、まず「再エネは高い」という思い込みがあると感じていて、これをどう払拭するかを一番のポイントとして捉えています。個人にしても、行政・企業にしても、自身の所有する建物の屋根で太陽光発電をできるということは、万が一の災害が起きた時の電源にもなります。「再エネ電気を使える」だけではない、2つも3つもメリットがあることです。だから、そうしたメリットの情報を届けていけば、自ずと変わってくのではないかと。変に「良いことやりましょう」とか、「温暖化防止のためにやりましょう」とか訴えるのではなく、「こんなに良いことあるからやりましょう、しかもコスト負担なくできますよ」と発信していきたいと思います。
「再エネ100宣言」に参加している主体のみなさまはとても勉強家で、まさにこうしたメリットについてよく知っていて、だから再エネ100%を目指しています。そして、元々実行しようと思っていた再エネプランへの切り替えや自家発電について、このイニシアティブができたことでアピールの場が生まれてすごく嬉しい、という声を頂いています。また、「再エネ100宣言」をした主体として名前が出ることで、再エネを作っている・売っている事業者から提案が来たり、宣言をしたことについて会社のパンフレットに載せたり、採用活動でアピールすることで企業ブランドの向上に使用しているそうです。学校も宣言主体に入っていますが、最近は若い人たちの中で気候変動に関心が高い層も多いため、学校としても再エネ推進に取り組んでいると広報したいと。それぞれの主体が、それぞれの立場で再エネ100%化のメリットを捉えています。
――エネルギーの調達以外に気候変動対策で注目しているものはありますか。
金子 一つはパームオイルです。パームオイルはマレーシア・インドネシアで生産されていますが、熱帯雨林を切って土地利用を変化させるので、大きなCO2排出源と言われています。パームオイルの持続可能な調達もグリーン購入ネットワーク(GPN)では力を入れていて、食べ物や日用品にも使用されていますので、ガイドライン等でしっかりと情報提供したいと考えています。
また、先の「RE100」はイギリスの環境団体が主体となり進めている活動ですが、本来は「EV100(企業による電気自動車の使用や環境整備促進をめざす国際イニシアティブ)」と「EP100(事業のエネルギー効率を倍増させることを目標に掲げる企業が参加する国際イニシアティブ)」の三つの活動を組み合わせて脱炭素を目指す活動となっています。「再エネ100宣言」に参加している主体の多くがそうですが、工場などを持っておらず、自分たちで熱利用をしない場合には、「RE100」と「EV100」を達成してしまえば「脱炭素」になります。なので、電気自動車の普及も再エネ推進と同じように注目しています。再エネ100%とセットでできればもうその会社は「脱炭素」達成。実は、ゴールはすぐそこまで来ているのです。
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