H25年度インタビュー第3回
●桑野 泰輔(くわの たいすけ)さん
1989年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、大学入学前から起業家を目指し、新卒でテラモーターズ入社、今年2年目。「福岡から出てきました。じつは僕はじいちゃん、ばあちゃんっこで、祖父母は農業をやっていました。そのおばあちゃんが昔から農作業に電動のシニアカーに乗っていましたから、モビリティーには縁があったんですね。ベンチャーで物を作って、それが環境にもいいと言われるような社会的な承認があるというのは幸せなことです。」
【テラモーターズ株式会社の概要】
2010年設立のベンチャー企業。EV(電動輸送機)メーカーとして、創業3年目に電動バイクを合計8千台超販売し、国内シェアの3割強を占める。ホンダ、ヤマハ発動機を抑えて日本のトップに。フィリピン、ベトナム、インドなど東南アジアを中心に世界販売を始める。各種メディアから『強いもの作りニッポン』を復活させるメガベンチャーとして注目を集めている。社名のテラはラテン語で「地球」の意味。本社は東京・渋谷の繁華街にある居酒屋さんが同居するビルの中、4畳半に仕切られたレンタルオフィスの2部屋分。
東南アジアでは、ガソリンエンジンのバイクや三輪タクシーが街中を騒がしく走り回っています。フィリピンやインドネシア、タイにインド等々。これらの車体がすべて電動バイクやEVタクシーに置き変わったら、どんなにか大気汚染防止やCO2削減に役立つだろうかと、誰しもが想像することでしょう。電動バイクメーカーとして日本市場のトップに立ったベンチャー企業のテラモーターズが国内外で挑戦を続けています。
――低炭素杯2013で「フィリピンにおける3輪タクシーEV化プロジェクト」というテーマで最優秀ソーシャル・イノベーション賞を受賞されました。その内容についてお聞かせ下さい。
桑野 泰輔さん
桑野 当社の製品は電動バイクと高齢者用の小型モビリティー、それから三輪のEVがあります。私たちは最初から電動バイクで世界に、特にアジア市場に出ていくことを目指していましたから、今回のフィリピンの三輪EVタクシーのプロジェクトもアジアでの取り組みの一つなのです。実はバイクと三輪車は世界で年間約9,000万台売られているのですが、そのうち約85%はアジアで使われています。フィリピンだけでなく、アジア各国は本格的なモータリゼーションの時代を迎えようとしていますが、これらのガソリン車がEVに置き換わったとしたら低炭素化の効果はとてつもなく大きいと思います。
フィリピンのプロジェクトですが、フィリピン国内には市民の足として約350万台の三輪タクシーが走っていて、これが非常に質の悪いエンジンを使っているものですから、悪質な排気ガス、CO2の排出量が非常に多い。特に都市部だとマスクをしたり、ハンカチを口に当てたりして歩いて人をたくさん見かけます。
フィリピン政府がこういう状況を改善するために、まずすべてのタクシーをEVに変えてしまおうということで、その手始めに2017年までに約10万台の三輪EVタクシーを導入するというプロジェクトを打ち上げました。まず3,000台だけテストで入れてみて、問題点を改善しながら、2017年までに全部入れていくという形です。10万台が三輪EVタクシーになれば年間26万トンのCO2が削減できます。この量は日本の家庭の約5万4千世帯分排出量が削減できる勘定になるのです。
当社もこのプロジェクトに入札参加しています。最終的には3社が3,000台を分担して納入することになります。
――低炭素化だけではないメリットもありそうですね。
桑野 はい、このプロジェクトは低炭素化だけではなくて、フィリピンでは大気汚染が原因の死亡者が約5千~6千人といわれており、その方々を救済する一助にもつながるわけです。また、販売に関しては現地のアッセンブラーと提携する予定ですし、最終的には修理やアフターサービスに関して現地の方を雇うことになるので、雇用を生み出すという経済効果もあります。
それに現地のガソリン代が値上がりし、現在リッター当たり150円ぐらいまで上がっていますから、タクシードライバーの懐を非常に痛めつけているのです。アジア開発銀行の試算によると、三輪EVタクシーに変えると、タクシードライバーの収入が約5倍になるという試算もあるくらいなのです。
ですから、これは単なるCO2削減とか低炭素社会への取り組みというだけでなくて、すべてを包括した低炭素社会エコシステムをつくっていくようなプロジェクトなのです。それにチャレンジしているところです。
――フィリピンだけでなく、ベトナムやインドでも電動バイク販売に乗り出すようですね。
電動3輪(左)とスマホに繋がるバイクA4000i(右)
桑野 今、東南アジアではスマホ(スマートフォン)とバイクが、昔日本で言われた『三種の神器』のように人気を博しており、市場が急速に拡大中です。私どもはベトナムに支社を設けていまして、昨年、国内で電動バイクを30台走らせてどのぐらいCO2を削減できるかというプロジェクトを行い、1台につき年間で300kgほど削減できるということも分かりました。
そこでベトナムに関しては、まず、電動バイクA4000i という30~40万円ぐらいするモデルを戦略車として出していく。これは世界で初めてスマホに繋がる機能を搭載しており、iPhoneによって走行データなどの情報をクラウドサーバに上げることができます。もちろんCO2削減量も表示できます。
――高品質品でブランドイメージを付けるということですね。
桑野 そうです。それに続けて1,000ドル前後、10万円以下の電動バイクを投入していく。どういう車体かというと、今すごく現地に人気なのは、本当に自転車とバイクの間みたいな感じで、電動自転車という方が正しいというぐらいのものです。これがむちゃくちゃ走っているんですよ、若者を中心に。一種のトレンドですね。ですから、ベトナムの大衆層の方々向けに、これを日本ブランドでしかも低価格で出していくという方針です。
インドでも、さきほどのフィリピンで走っている三輪のタクシーのようなオートリキシャーというものが約200万台走っていますから、これをまたEV化することで、低炭素社会への取り組みに貢献できるということになります。
――テラモーターズさんはベンチャー企業として注目され、徳重徹社長は各種メディアに登場なさっています。アジアの市場開拓は具体的にどのように?
テラモーターズ社員の皆さま。左から、中川さん、
渡邉さん(前)、大橋さん(後)、桑原さん
桑野 最初は社長の徳重が現地に乗り込んで大体の道を切り開きますが、その後は社員が任されるという形です。自分で考え行動しなければ何も進みません。フィリピン入札を全部ここまで形につくってきたのが、関鉄平という者で20代です。新卒で入って1年間日本市場で鍛えられ、もう現地で一人でやってこいと。それに今ベトナムに駐在して開発マネジメントを任されている林信吾も20代です。
――皆さんお若い。
桑野 社員は15名で、平均年齢は25歳くらいです。社長の徳重は43歳です。この前、世界的に有名なボストン・コンサルティングにいた今野寿明さんがベンチャーへの挑戦ということで入社しました。
ちょっと面白いのは、70歳の吉田康憲さんという方が入社して、その方は元日産ディーゼル工業でタイの現地法人副社長も務めたような人材なんです。最後に一花咲かせたいと、一人門をたたかれたとか。やっぱり若い人材、突破できる人材はすごく大切ですけども、一方で、ベテランの方の力というのはすごく重要なので、徳重を中心に結構いいチームができているなと思っています。でも平均年齢はこれでだいぶ上がったかも(笑)。
――桑野さんは? 国内市場をご担当とか。
桑野 じつは私も起業家を目指して入社した一人でして、新卒2年目の25歳です。当社は埼玉に工場があります。私の担当は、中国で作った製品をシッピング(船積み)してきたものの在庫管理、車体整備をこの工場で行った後、全国に出荷しています。その一連の管理と仕組み作りです。あとは九州の販路を全部担当しているのと農機具販路の担当ですね。
――農機具の販路? ヰセキとかクボタとかの?
桑野 そうです。実際、農機具販売店に電動バイクを置いていただいている。電動バイクは結構、農家に需要があるんです。というのも、皆さん原付で早朝に水回りとかを見に行かれるんですよ。そのときにうるさくないっていうのが一つ。あと、今は地方に行けば行くほどガソリンスタンドが減っていて、ガソリンを入れに行くのに10kmとか行かなければならない。ものすごく困るわけですね。そこで結構需要がマッチして、今は群馬クボタさん、富山クボタさんと、あとヰセキ東北、ヰセキ中国を主にやっています。
――そういうのは、現場を歩かないと分からないんでしょうね。
桑野 そうですね。海外も国内も社員はどんどん現地というか現場に放り込まれます。現場を歩きまわって初めてわかることが多い。
――EVを作って販売するというビジネスそのものが、直接、低炭素化という環境問題に貢献することに繋がっています。今後のことも含めて最後に。
桑野さんの机の前にこんな紙が貼ってありました。
ベンチャーとしての心得、心意気でしょうか。
桑野 やはり今後EVって必ず必要というか、アジアを含め世界中にモータリゼーションが広がっていく中で、ガソリン燃料からシフトしていかないと地球環境を持続できないというのは間違いないと思います。
そのときに、じゃあ誰が最初のプレーヤーとして先頭を切るかということが問題になります。ですから一事業家として、一会社として、まず飛び出していきたいと。そのときに本当に企業として経済性とのマッチングができるかどうか。環境プラス実際に経済的で、「ガソリンと比べて安いですよ」とか、先ほどのEVタクシーの方にも「給料アップできますよ」とか、そういうことでないと続きません。EVという乗り物でそれが実現できるんです。
「じゃあ、なぜそれをベンチャーがやるのですか。大企業じゃないんですか」とよく聞かれます。大企業では構造的に難しいのです。例えばスズキだとかホンダが長年、50年ぐらいで築き上げてきたエンジン技術や系列のメーカー、それに世界的なガソリンバイクの市場があります。これらをいったん壊して、全く違う電動バイクでまた新たに設備投資していくというのは大変です。ですからまっさらな状態から取り組めるEVベンチャーにこそチャンスがありますし、その仕事を担っていきたいですね。
――とてもハードな仕事のようですがつらくはないですか?
桑野 もちろんいろいろと大変なことはたくさんあります。でも毎日がエキサイティングです。本当に。ITとかのベンチャーはたくさんありますがITって物が見えないじゃないですか。実際、物をつくって「いいね」って言われて、しかもそれが環境問題にも役立つというのはとても幸せなことだと思っています。
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