H25年度インタビュー第6回
●杉山 耕治(すぎやま こうじ)さん
1977年生まれ。技術士(機械部門)。東海大学工学部卒業後、環境関係の仕事を希望し三井造船環境エンジニアリング㈱に入社。ごみ処理プラントの建設・補修に従事。2003年、父親の経営する㈱ミヨシに入社、2012年12月に代表取締役に就任。会長である父と母を含め、全社員10名の町工場の社長業のかたわら、現在も自身で金型製作、試作品加工業務をこなしている。一方で、日本技術士会機械部会幹事、青年技術士交流実行委員会委員として活躍。今年11月にも、愛知県から自動車関連企業の若手エンジニアを招いた『町工場連携企画/精密板金ワークショップ』を、仲間である精密板金加工業の海内工業㈱と共同で開催した。
【株式会社ミヨシの概要】
1972年創業。試作品の製作、プラスチック成形用の金型製作、プラスチック製品の小ロットでの製作、治具等を製作。主な製品は、自動車の電装部品、コネクタ、ワイヤーハーネス等プラスチック製品のほか、OA機器や研究開発部署の評価試験用金型も製作。最近、世界で話題の低価格組み立て式ロボットキット「RAPIRO(ラピロ)」を開発する4社の中で金型製作を担当している。
JR総武線新小岩駅から北へ徒歩15分、入り組んだ住宅地の中、お寺と住宅に囲まれて㈱ミヨシの建物があります。延べ床面積303m2の2階建て、1階が工場、2階に事務所、試作室、会議室です。(株)ミヨシは、環境省の「エコアクション21」*1の認証を取得するとともに、「平成18年度葛飾区優良工場認定業者」に認定されており、クール・ネット東京が実施した「省エネ診断」でも、診断員から高い評価を受けています。今回は、2代目青年社長が率いる、もの作りへの強い思いに支えられた町工場の省エネ活動を紹介します。
*1 エコアクション21:環境省が定めた環境経営システム・取り組み・報告に関するガイドラインに基づいて、その取り組みを行う事業者を審査・認証・登録する制度。認証・登録は2年ごとの更新。
――工場内にはいろいろな機械がありますね。どのように使われているのか、エネルギーの使われ方も含めて教えて下さい。
杉山 それぞれ工作機械です。マシニングセンタといわれる、金属を削る切削加工機が3台、放電加工機が3台、これは電気の力で鉄などの金属を溶かしながら加工する機械です。それと射出成形機といって、樹脂を溶かして金型に流し込んで成形する機械が3台、あとはフライス盤と呼ばれる昔ながらの切削加工機が2台です。そのほかに創業時から使用している彫刻機などもあります。すべて電気で動く機械ですから、使う時間が長ければ長いほど電気の使用量も増えてきます。
杉山 それとうちの会社がちょっと特殊で、量産ではなくて試作品など一品モノで加工する仕事が非常に多く、それが突発的に入ってきます。ですから、機械が継続して動いていることは少なくて、止まって動いての繰り返しです。
――そうすると、負荷の平準化、機械を平均的に継続して使うことが省エネに繋がると言われますが、それはできませんね。
杉山 そうですね。じつは、「エコアクション21」の認証取得の折にも、「エネルギー原単位」をとってみたらと言われたのですが、それは不可能でした。結局たどりついたのが、いかに機械を使う時間を短くするか、という点にフォーカスすることでした。機械には使っていなくても電気を繋いでいる時間や、機械を立ち上げるための暖機に必要な時間が発生します。待機時間といいますが、それを機械ごとにトライアルで実測して、標準待機時間を決めてそれを守るようにしたのです。
機械ごとに暖機時間を表示し、待機電力を削減
それと工程改善も待機時間の短縮に繋がりました。例えばA、B、Cの工程があって、AとCは工夫次第で連続してできるのに、間にBを挟んでいた。そこでB工程をC工程の後ろにもっていってはどうか、ということをみんなで話し合いながら工程改善をしていったのです。
結果的に機械の作業効率があがって電気代が減るばかりでなく、作業時間も短くなって残業時間の短縮にもなっています。試行錯誤で改善を重ねている段階ですが、今後もより良い方法を探していきたいですね。
――試作品の加工が多いということですが、決まった受注先というのはあるのでしょうか。
杉山 それはありませんね。受注の波はすごくあります。今のところお客さんとして年間おつき合いがあるのは約30社です。あと、金型や成形に限らず製造業や異業種でお付き合いさせていただいている企業もたくさんあります。
今回の組み立て式ロボット『RAPIRO』の金型製作にしてみても、製造業の仲間や展示会を通じて機楽の石渡さんに出会ったのがきっかけです。プロジェクトの資金調達としてクラウドファンディング*2を採用したりもしました。
*2 クラウドファンディング:プロジェクトのための資金を調達するために、個人や団体がインターネット上で企画内容と必要な金額を提示し、広く支援を呼びかける手法。予約販売や提供資金に応じたサービスを受けることもある。
――省エネの話に戻りますが、圧縮空気配管のループ化が評価されていました。
杉山 圧縮空気はエアを動力にした機械やエアガン、洗浄などに使用します。当初、空気圧縮機の配管はナイロンチューブで回してそれぞれ末端の機器につないでいたのですが、奥に行くほど圧力が下がってしまう。そこで配管をループ化して使用機器ごとにバルブで締められるようにしたのです。すごく単純なことですが、圧力損失を減らすことができました。均一な空気圧が保てるし、空気がたまるのが早いので機械の立ち上げも早くなりました。
――省エネ効果だけではないのですね。
杉山 ええ。機械の使い勝手が良くなり作業改善にもつながって、仕事が早くなりました。
――生産プロセスだけでなく、空調や建物環境にも工夫されているようですね。
杉山 工場の屋上に遮熱塗料を塗ったりしました。これは屋上の表面温度が下がり夏の冷房電力を下げることが狙いです。
それとナイトパージですね。夏や中間期の夜間は工場建屋内に温かい空気が溜まってしまうので、夜間に換気扇を回して空気を排出して外気を導入すると、昼間の空調負荷が低減できるのです。朝、外気温が部屋の温度より低い場合には、外気の温度が上がる前に窓を全開して空気を入れ替えてあげることも結構効果的です。
――こうした省エネ対策や環境問題への積極的な対応はいつから始まったのでしょう。
杉山 もともと学生時代から環境関係の仕事に就きたいと思って前の会社にも入ったわけで、11年前にここに来てからも環境問題の社会性を訴え続けました。最初のころはみんな「環境なんかより仕事をやった方が良い」とか「環境に優しいとかってお金かかるんじゃないの」みたいな反応で「よし!やろう!」という雰囲気ではなかったですね。
最初は「電気の使用量減らしたいのだけど何かアイデアない?」ってみんなに聞いて回ったりしました。そうすると誰か一人が「これやったらどう」って言うと、それを採用して、「これいいね」とみんなが言い始める。すると「じゃあ、俺も俺も」と言う感じでアイデアが出てきました。
ですから最初は効果があるかわからなくても、まずはやってみて、出来たことをきちんと評価することが大切だと感じました。おかげで色々なアイデアが出ました。
――例えばどんなことでしょう。
電気のスイッチに
カバー
杉山 トイレの照明スイッチに小さなプラスチックの可動式カバーをつけたんです。じつは2階のトイレは陽のよく当たる明るい場所にあるのですが、トイレとなると誰でもが反射的にスイッチを入れてしまうんです。このカバーのおかげで、みなのクセがなくなり、暗い時だけスイッチを入れるようになりました。とても簡単なことですよね。
それと窓のプチプチ、気泡緩衝材(断熱シート)です。最初はみんな「ええ ! こんなの貼るの?」「見栄えが悪い」なんて言っていましたが、やってみたらそれなりに効果を実感するようで……。
――何か楽しそうですね。
社員のアイディアでごみ箱を立体化 |
キッチンでもこんな工夫 |
杉山 ええ。ほとんど社員のアイデアです。照明の間引きも社員からの提案ですし、ゴミ箱の立体化も、自分たちで作ってしまった。
――ゴミ箱の立体化?
杉山 分別用のプラスチックのゴミ箱を廊下に4つも並べて置くと狭くて通りにくい。そこで、邪魔だから立体にしちゃおうということで、自分たちで図面を描いて、ゴミ箱を斜め横置きにして4段に重ねられる骨組みを作ったわけです。使いやすいし場所をとらない。
――電力モニターを設置しているそうですが、これはどのようにお使いですか。
杉山 省エネナビですね。ちょうど葛飾区で電力モニターを設置する協力者を募集していたのです。そこで応募して取り付けました。やっぱりこれは入れてすごく良かった。200Vと100Vで、電灯と電力に分けて見ることができます。
省エネナビで電力消費の「見える化」
私たちは試作などで急な仕事が入ることがあり、いつも同じ機械が同じように動いているわけではありません。その上で省エネ・節電を進めていくには、電力消費をリアルタイムで見て運転管理を工夫していく、といった意識付けがとても効果的なことがわかりました。「今日、機械がこれだけしか動いていない割には通常より電力消費が多いな」とか「仕事の受注量に関係なく、7月から9月の夕方4時頃に一番のピークを迎える。ということはエアコンだね。じゃあ、次どんな対策をとろうか」と話が進んでいきます。
――こうした活動が「エコアクション21」の認証取得の継続に繋がってきたわけですね。
葛飾区の優良事業所にも選ばれています
杉山 エコアクション21というのは環境経営への取り組みですから、会社の意識をそちらに向けたかったのです。私たちの仕事は技能や技術であり、使用される材料、電気などを減らしたり、より良い製品を失敗せずに製作すると行ったことが、最終的には経営につながっています。環境と技術をセットで考えていく。最終的にはこうした取り組みが仕事の効率化に全部繋がっていくというイメージが最初からありました。
――そうすると、認証を受けて変わってきた感じは……。
杉山 すごくありますね。いくら「環境問題に取り組みましょう」と言ったところで、具体的な目標がないと動きづらいですし、モチベーションも保てません。エコアクション21の審査は中間審査も含めると毎年入りますから、目標を掲げてそれに向けて活動するというインセンティブが働くわけです。
――最後に今後の抱負をお聞かせ下さい。
杉山 耕治さん
杉山 今回の「省エネ診断」で具体的に指摘してもらった改善提案はありがたかったですね。特に私たちが苦手としているデータの抽出をし、数値やグラフで今どのような状態かわかるように、見える化としてくれたので対策は練りやすいと思っています。老朽化したエアコンの改修や照明の改善、工場のシャッターの断熱化などは、既に対策を済ませたものもあり、今後も進めていくつもりです。
ただ、このように個々の省エネ対策も大切なのですが、肝心なのは、機械は人が使っているのであって、その人の仕事が早く終わればそれが一番の省エネになるのです。効率的で信頼されるもの作りがわたしたちの目指すべき本丸だと思っています。
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