H25年度インタビュー第7回
●山本 吉毅(やまもと よしたか)さん
荒川区環境清掃部環境課長。「2011年の震災当時、私は清掃事務所長でした。清掃事務所は計画停電区域にあったので、パソコンやエアコンも動きませんし、朝方の停電だと、清掃作業に行くにしても前の日から電動シャッターを開けておくしかありませんでした。区民も区の職員も本当に不自由さを感じたことが、この節電活動に繋がっているのです」
●池上 隆雄(いけがみ たかお)さん
荒川区環境清掃部環境課環境推進係長(課長補佐)。「クールシェアということで、私どもの『街なか避暑地』同様の試みをした市町村も幾つかあります。しかし、単に場所を開設したというところが多いのです。問題はどうすれば住民の方々に利用してもらえるか、だと思います」
●白石 亜以(しらいし あい)さん
荒川区環境清掃部環境課環境推進係。「区役所の仕事の中でも、環境課の仕事はかわいいカードを作るとか工夫のしがいがありますね。和気あいあいとした職場です。3階にある荒川遊園の模型においてある都電の車体は、池上の手作りなんです」
【環境課がある「あらかわエコセンター」について】
常磐線三河島駅を降りて、昔ながらの下町の商店街を抜けて徒歩10分。住宅や小さな事務所、町工場に囲まれたところに「あらかわエコセンター(荒川区立環境学習情報センター)」があります。元保健所だった3階建てを改築して、1階に荒川たんぽぽセンター(荒川区立心身障害者福祉センター)、2階と3階が「あらかわエコセンター」で、環境課の事務室もその一角にあります。見学自由な「楽しく遊ぶ環境学習コーナー」や単板ガラスと複層ガラスの違いが分かる窓の見本展示、エコ助成の対象であるエネファーム、エコキュートなどの家庭用エネルギー機器の展示も。本庁舎とは別棟で環境教育の場であることが、多くの区民が親近感をもって訪ねてくる理由になっているようです。
荒川区は、「低炭素杯2013」において『「節電のまち あらかわ」~低炭素スタイルでGO !!~』を発表して特別審査員賞を受賞しました。「あらかわ街なか避暑地」「節電マイレージコンテスト」「あら坊・あらみぃエコカード」「あらかわ節電検定」等々、多彩なアイデアに基づくイベントに多数の区民が参加しています。10km2と東京23区では比較的狭い面積の荒川区では、職員の区内の移動には自転車を使っているといいます。そんな荒川区の省エネ・節電活動への取り組みについてお聞きしました。
――このインタビュー記事『とうきょうエコ・コレクション』の第1回目に「クールシェア・ウォームシェアのすすめ」を掲載しました。クールシェアの象徴として必ず「あらかわ街なか避暑地」が紹介されます。きっかけは何だったんでしょう。
山本課長
山本 2011年の3月11日の東日本大震災です。23区の中で、荒川区と足立区のみで計画停電が実施されたのです。
節電が叫ばれる中でしたが、夏の暑い盛りに「エアコン消しましょう」とか「テレビを見るのは控えましょう」とは呼びかけづらいし、楽しくありませんよね。そこで区民の方々に参加してもらえるような取り組みが何かないかといろいろアイデアを出し合いました。計画停電の対象区域は区内全域ではありませんので、停電中の3時間、エアコンを使える地域もあるわけです。じゃあ、区の施設を利用して涼しいところに集まってもらおう、ということを考えつきました。夏場の熱中症予防につなげるねらいもありました。
街なか避暑地のポスター
ところが環境清掃部の施設だけでやってもあまり意味がないですし、高齢者は遠いと来てもらえません。そこでたくさんの区民に利用してもらうために、区内のふれあい館とか図書館などにお願いして「街なか避暑地」になってもらったのです。所管部署は違いましたが、他の部署が協力してくれました。荒川区がうまくいったのは、こうした各部署の普段からの連携と、区長を本部長にした節電本部を設置して、全部署が協力体制をとったことでしょうね。
――「避暑地」の数と区民の利用状況はどうでしょう。
池上 今年で3年目を迎えます。「避暑地」目的だけというのは区別できませんが、来館者数はとても増えています。23年度が33施設で約53万人、今年は50施設に増えて6月~9月までで86万人です。今年度からは「元祖・本家あらかわ街なか避暑地」と呼んで実施しています。やはり皆さんに利用してもらうための工夫や仕掛けが必要ですね。
当初は来館者に「あら坊エコカード」をお配りしてそのカードを集めてもらう仕組みでした。今年は新たに妹分の「あらみぃ」を加えて「あら坊・あらみぃエコカード」にしてポイント式にしたのです。「街なか避暑地」に行くとこのカードにはんこが1個もらえます。それを20個または40個集めると景品がもらえます。
――かわいくて楽しいカードですね。このようなアイデアはどこから?
エコ活動に参加して |
2013年度からは |
ポイントを集めると、 |
白石 「あら坊」「あらみぃ」は荒川区で親しまれている人気キャラクターですから、それをカードにしたり、景品のデザインに取り入れています。アイデアは担当している女性職員から出されたもので、委託する業者さんと協力してカードやノベルティを作っています。「あら坊・あらみぃ」をあしらった保冷バッグは人気ですね。
池上 はんこを押した期間は6月から始めて9月まで4か月間で、景品交換は1,339件でした。そのうち保冷バッグが343件で一番多いですね。
白石 たしかに節電というと堅苦しい雰囲気がありますが、「かわいい」というエッセンスがプラスされて、お母さんやちびっこの心をひきつけている感じはありますね。
あらかわエコセンター
池上 来館者や景品交換する人が増えたのはもう一つ理由があります。去年までは景品交換はここのエコセンターだけでした。それだと不便だろうということで、ふれあい館やひろば館でも交換できるようにしました。所管の部署からは、最初「スタンプ押すぐらいはいいけど、景品交換までやる手続きはたいへんだなあ」と言われましたが、やってくれることになりました。やはり近い方が足を運びやすいようです。
山本 ふれあい館を所管する課長さんにこんな話を聞きました。去年かな、すごく暑い盛りに、ちょうどふれあい館の前の道でお年寄りの具合が悪くなって、それを見た職員が「避暑地」をやっていますからちょっと休憩していきませんかとお誘いしたのです。私どもで用意して施設に配っているお茶とあめを食べて一休みして帰られた。そのお年寄りがこんなにいいところがあるんだと言って、それから1か月間毎日通ってこられたそうです。
――話し相手もいるし、本来の目的である「ふれあい、コミュニティの場」でもあるわけすね。
山本 ええ。お年寄りと若いお母さん、それに子どもたちを含めた交流が多くなったと、ふれあい館の職員さんからは聞きますね。
――ところで、このエコカードは「街なか避暑地」だけで配っているのですか?
池上 いいえ。区で実施している環境イベントや節電イベントに参加いただいた方に配っています。例えば今年7月に日暮里駅前で実施した「ウオーターフェスティバル」などに来ていただくと、普通は1日一つのスタンプですが、こういうイベントだと特典を付けて三つ押しますよ、と言ってイベントの呼び水にできるような形で配っています。
――いろいろ工夫なさっているわけですね。
池上 財政的にそんなに豊かではありませんから、物としては先ほど山本課長が触れた「避暑地」に配るお茶とあめ、それに避暑地をやっているという「のぼり」ですね。各施設に立てないとやっていることがわかりませんから。
じつはウォーターフェティバルのとき、打ち水のキックオフイベントに氷柱を用意したのです。単に大きな氷の柱です。これが子どもたちに人気があった。それではと、予算の範囲の中で幾つかの館に声をかけてこの氷柱をおいたら、来ている子どもたちがそれに触ってずーっと遊んでいたそうです。限られた予算でも工夫次第ですね。
――「低炭素杯2013」では、「節電マイレージコンテスト」も紹介していました。
白石 どうしたら区民のみなさんに楽しく節電に取り組んでもらえるだろうか、と考えた結果、こうしたコンテストの形になりました。7月から9月の間、電気使用量を前年同月と比べて削減できた世帯に商品をあげるのです。各月ごとに抽選で、区内の共通お買い物券3000円分と1000円分を、上位50世帯とそれに次ぐ150世帯にさしあげます。
応募用紙には必ず「電気ご使用量のお知らせ」を貼ってもらいます。それには前年同月使用量も記載されていますので、節電できたかどうか確認できます。まず、こうした数値に注意を払ってもらうことが節電の第一歩ですから。それに「わが家の節電アイデア」を記入してもらうことも、無理のない節電行動の動機になっていると思います。昨年は延べで約5,000世帯の参加があり、合計の削減量は865,000kWh、削減率は34.4%でした。
――荒川区では、このほかにも区民参加のさまざまな活動を展開していると聞きました。
山本 そうですね。区独自の「あらかわ節電検定」や子ども節電リーダーの育成、事業者向け節電コンテストの実施、それに区内の太陽光発電を増やすための「街なかメガソーラー~みんなの発電所計画~」など、いろいろです。
この節電検定にはビギナーコースもあって、小学生が挑戦しています。区報に「あらかわ区報Jr(ジュニア)」があります。そこで「節電検定に挑戦 ! 夏の節電博士になろう ! 」という特集を組んで、答えのヒントを掲載したり、夏休みのイベントを紹介したり、楽しい新聞ですよ。
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――この「あらかわエコセンター」にはみなさん親しみをもっているようですし、3階にはいろいろな手作りの展示物があり、区が委託したNPO法人の「エコ生活ひろめ隊」も子どもや母親を対象に各種のプログラムを開催しています。このような活発な活動が実現できている理由はどこにあるのでしょう?
全員集合(左から白石さん、山本課長、池上係長)
山本 もともと下町ですから人情味が厚いというか、狭い地域ですからコミュニケーションはとりやすい。それに職員は自転車を使って区内を動き回りますから、区民のみなさんとの距離が近いのですね。我々の企画するイベントは、各地区の町会や学校の協力なしには成り立ちません。そういうことで言えば、行政がこういうことをやりたいっていうとき、乗りがよいというか動きが早いですね。
それともう一つ大きく変わったのは、現区長の西川区長が掲げている「区政は区民を幸せにするシステムである」と言う考え方に支えられているのでしょうね。荒川区は「幸せリーグ」*1の事務局を担っていますし、区の職員は役人というか公務員であると同時に、区民に寄り添って考え、行動するということが、だんだん浸透してきていると思います。
*1「幸せリーグ」:正式名称は「住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合」。本年6月発足当時は53市区町村であったが現在は60を超えているという。会長は荒川区長の西川太一郎(にしかわたいいちろう)氏。(以下、2013年7月28日付朝日新聞朝刊より)見出しは「“幸せ”感じる施策模索」。住民の幸福度を施策に反映する仕組みを作ろうという荒川区の取り組みが全国に広がっている。荒川区は2005年、荒川区民総幸福度(グロス・アラカワ・ハピネス=GAH)を提唱しプロジェクトチームを結成した。09年に区のシンクタンク「荒川区自治総合研究所」を設立したころから他の自治体など視察が相次いだ。問題意識を共有できるとして連携の話が持ち上がり、リーグ結成につながった。
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