過去インタビュー詳細 平成28年度vol3

H28年度インタビュー第3回

10年間、同じ高等学校の環境教育を続ける法政大学のサークルSEET(シート)
-地球温暖化対策の国連ゲームやリニア中央新幹線のディスカッションゲームなど-

●澁谷 喬晴(しぶや たかはる)さん

法政大学SEET代表(キャリアデザイン学部3年生)

●喜治 将大(きじ まさひろ)さん

法政大学SEETメンバー(人間環境学部1年生)

法政大学に高校の環境教育を10年間実践してきたSEET(シート)と呼ばれる大学公認のサークルがある。SEETはShiroyama Environmental Education Trainingの頭文字をとったもの。Shiroyamaは、神奈川県立城山高等学校を指している。毎年、高校1年生を対象にテーマを決めたゲーム感覚の授業を行うそうだ。大学1年生の時に地球温暖化対策をテーマにした「国連ゲーム」を経験し、現在SEETの代表をしている3年生の澁谷喬晴さんと、今年初めて活動を経験した1年生の喜治将大さんに、サークル名の由来を含めて、活動内容について話をお聞きしました。

――このSEETというサークルですが、どのような経緯でできたのでしょう。

澁谷 喬晴さん

澁谷 喬晴さん

澁谷  もとは法政大学人間環境学部の課外授業の一つで「奥多摩フィールドスタディ」という授業がありました。この授業の狙いは、大学生が東京都奥多摩地区の森林が抱える環境問題について実態を知り、問題解決の糸口を考えることでした。この授業に参加した一部の学生たちが、森林が抱える環境問題などを独自で勉強したいということで「水と緑のフォーラム法政」、通称ミズミドと呼んでいる団体を作ったのが始まりです。

2005年にこのミズミドが法政大学構内で森林の環境問題に関するパネル展示会を開催したのですが、当時の城山高校の校長がこの展示をご覧になり、この大学生たちの活動を高校生に紹介してほしいと人間環境学部の学部長あてに手紙が届きました。

――では、城山高校のOBが始めたとかの繋がりではなくて?

澁谷  はい。たまたま校長がご覧になって。人間環境学部ではこの依頼を受けて、大学と高校の連携の一環と位置付けてその話がミズミドにきたのです。ちょうどその頃、社会学部のゼミでも環境教育で実践的なことを模索していたようで、それなら人間環境学部と社会学部が協力して城山高校で環境教育の授業を行おう、ということになったそうです。ミズミドのメンバーと社会学部のゼミ生でSEETというプロジェクトチームを発足させたのです。それが今のサークルに繋がっています。サークルの人数は、以前は14、5人だったそうですが、今年は9名です。

――澁谷さんはキャリアデザイン学部ですよね。どのようにして参加されたのですか。

澁谷  僕の入学時は、学部の垣根はありませんでした。何か大学生活でこれを頑張りましたっていえるようなことをしたくて…高校で授業をするって意識高そうじゃないですか(笑)1年の新入生歓迎会の折にサークルガイドブックなどを見て入りました。

喜治 将大さん

喜治 将大さん

――喜治さんも同じ?

喜治  僕は最初からボランティア系のサークルに入ろうと思っていました。どんなことをやるかは決めていませんでしたが、法政のホームページとか、ガイドを見てSEETを選びました。

――1年間の活動内容とスケジュールについて教えてください。

文化祭での出展の様子

文化祭での出展の様子

澁谷  年に2回、城山高校で1年生の1クラスを対象に、環境をテーマにした授業を行っています。10月に1時間、11月に2時間ですが、授業を実施する前の9月には城山高校の文化祭にも出展しています。

4月は新入生歓迎期間でサークル員を募集します。もちろん、サークル員は、学年・学部問わず、常に募集しています。それ以降は、授業のテーマを何にするか皆で意見を出し合います。テーマが決まったら、そのテーマで何を高校生に伝えたいか、どのような授業を行うか準備を進めます。文化祭への出展は高校からの強いお誘いもあり、その年のテーマを模造紙にまとめ展示などを行います。私たちの活動を高校生に知ってもらいたいことと、サークルの1年生にとっては初めてのことですから、城山高校の雰囲気になじんでもらうことも目的です。

――喜治さんは今年初めてこの環境教育に参加されましたね。いかがでした?

喜治  本当は一連の資料作りを任されたんですけど、自分が作った資料は高校生が理解しにくい資料になってしまって…(笑)。パソコンの使い方も、高校で全くやってきませんでしたから。

やはりその辺は3年生とは力が違うなと実感しました。ただ、本番当日は一つの班を任せてもらって、その中で高校生たちの議論をうまく促すことができたかな、と思っています。

澁谷  授業はクラスが36名で、一つの班を6名ぐらいの生徒に分けて進めます。いつもであれば、1年生は上級生と一緒に班に入るのですが今年は人数がちょっと少なくて、喜治君にはもういきなり一人で「よろしく!」みたいな感じでお願いしたんです(笑)。でもしっかりとできていて、すごいなと思いました。

――ゲームを取り入れた授業を行っているそうですが。

澁谷  高校からは、普段の授業では取り入れられないような経験を生徒にさせてほしいという要望がありました。私たちも高校生に対して一方的に講義を行う受動的な学習ではなく、私たちがフォローしながら生徒が自主的に活動できるような授業を目指しています。そのための一つのやり方がゲーム形式の授業です。

――テーマは毎年違うのですね。

澁谷  はい。僕が1年の時からですと、一昨年が「地球温暖化」をテーマにした国連ゲーム、昨年度は「廃棄物処理」をテーマにしたごみ処理ゲーム。今年度は「リニア中央新幹線」をテーマにした疑似ロールプレイディスカッションゲームです。

――リニア中央新幹線?

澁谷  一見、環境ものじゃないテーマなのですが…。じつは城山高校のある相模原市をリニアが通ることになっています。そうすると、近くに駅ができて生活環境が変わるのではとか、掘り起こした土壌をどこへもっていくのかという環境面の問題もありますから。

――喜治さんが参加したものですね。どのようなゲームですか。

喜治  はい。僕たちはリニア新幹線に詳しい知識があるわけではありませんから、まずはサークル内の勉強会です。それから、リニアができることで受けるメリット、デメリットは立場によって違います。そこで、高校生をグループ分けして、日本政府、沿線の市長、リニア開発企業、住民などの立場になりきってもらって議論を進めます。事業を進めたい側、懸念する側の資料などを準備します。

日本政府の立場の例
沿線住民の立場の例

日本政府の立場の例PDF

沿線住民の立場の例PDF

喜治  学校側とも打ち合わせを何回か持ちます。そして文化祭でのテーマについての模造紙掲出、10月の1時間での概要学習、11月の2時間授業という経過をたどります。班ごとにSEETのメンバーが入って議論をリードしながら進めるのですが、中学を卒業したばかりの高校1年生と僕らですので、騒がしくなったりもしましたが、結構、楽しくやることができました。

授業の様子

授業の様子

配布した『「リニア中央新幹線建設賛成・反対」ワークシート』に記入してもらうのですが、そのシートの最終ページは「あなた個人として、リニア建設賛成・反対か、またその理由を班内で話し合い、班としての意見を決めよう! そして模造紙にそれを記入し、発表しよう!!」となっています。

澁谷  最後の全体のまとめでは、どちらが良い悪いという結論はだしません。一方が正しく、他方は間違っているというわけではないので。役割分担した立場で相手と折衝することを通じて、多様な意見があること、自分自身で考えることが重要なことをわかってもらえればと思っています。

――このゲーム形式は、一昨年の「国連ゲーム」が最初だったそうですね。きっかけは?

澁谷  以前はグループディスカッション形式でした。SEETのメンバーが教壇に立って、生徒たちに講義をしてから、グループディスカッションを行う形だったそうです。城山高校ではグループワークも盛んだったようで、普段の授業でもやっているから、君たちにしかできないことをやって欲しいと言われたそうで…。

それでは、ゲーム形式で実際に高校生に役割を与えて、疑似的に体験してもらえれば面白いのでは、ということで先輩が、模擬国連を高校生向けにアレンジした「国連ゲーム」を考え付いたようです。このゲームでは、自分の自由意見ではなくて、あくまでも国連ゲームで登場する国の代表になり代わって応対しなければいけませんから、普通では得られない新鮮な経験だったようです。僕は1年生でしたけど、自分たちでリハーサルを何回も繰り返して、その都度、結構修正点もあって大変でしたね。

――クール・ネット東京も地球温暖化防止がテーマですから、こうしたゲームには興味があります。どういう内容ですか。

澁谷  COP会議において京都議定書に代わる新たな提言が国際会議に提出されたと仮定して、その提言文を巡ってそれぞれ自分の国の立場に立って意見調整を進めるのです*1。生徒を9つの国に分けてその国の代表になってもらいます。自国にはそれぞれ賛同するための最低条件があり、その条件をクリアしなければ賛同することができないようにしてあります。

*1 SEETの国連ゲームの概要:国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の疑似体験を通し、地球温暖化対策や政界情勢に興味をもってもらうことを目的に作成したゲーム。生徒は参加国9か国に分かれ、各国の立場(経済状況、利益関係)を踏まえながら交渉を実施し、賛同してもらった国からサインをもらう。3か国以上のサインをもらえた国は、最終的に自国の「提言文」を作成・提出でき、9か国の多数決によって優勝が決まる。参加者の9か国:アメリカ、日本、ケニア、サウジアラビア、ツバル、ボリビア、ロシア、中国、ドイツ。

賛同するための各国の最低条件とは、例えば以下の通り。

アメリカ

中国が削減義務を負うようにする。途上国への技術的支援を義務とはしない。
京都議定書では途中離脱をした。その理由は、国内経済への負の影響懸念があったことと途上国が参加していないことである。

ツバル

全ての国が温室効果ガスの削減目標数値を義務として提言文に載せる。国の存亡(海面上昇により国が沈む可能性)にかかわる重大案件のため、確実に全ての国が削減義務を負うようにしなければならない。

――ここに「城山高校における環境教育活動-Next Innovation~知って、伝えて、考えて~」という冊子がありますが、これは報告書ですか?

1年間の活動記録

(クリックで拡大できます)

澁谷  はい。1年間の活動を記録に残し、私たちがどのような活動を展開しているか、宣伝・広報にも使っています。

――A4版で125頁もありますね。

澁谷  この年は、当時の先輩の授業への熱意がとてもあり、特に分厚くなっています。もちろん、授業への熱意は毎年ありますが…。副題は、サークルのスローガンとして毎年変えています。大学公認のサークルでもありますし、報告を兼ねた、私たちの活動の証明であり歴史でもあるわけです。今年も作成する時期がやってきました。

――生徒たちの反応はいかがですか。

澁谷  開催前の文化祭では、それぞれの国の民族衣装を着てみたり、事前授業で自分の国の文化を勉強するのですが、みな活発です。本番の授業ではツバルの生徒が「俺の国、明らかに不利じゃねえ?」みたいな感想がでないか、非常に不安だったんですけど…。環境授業を実施した日の生徒の日直日誌に「楽しかった」と書かれていたそうです。私たちも安堵しました。

城山高校からも、体験型の授業は新鮮味があり、生徒の興味・関心を高めやすい。生徒が自主的に学ぶ姿勢を見せてくれた、などの評価をいただきました。

――今後はどのような活動を?

澁谷  まずは、サークルの仲間をもっと増やして活動を継続することですね。城山高校からは法政大学へ入学する生徒さんもいます。その3年生の生徒がボランティアでこの環境授業を手伝ってくれるのですが、その生徒は母校へ貢献したいという思いから入学後はSEETに入ってくれる方も多いです。

それと現在は1クラスしか授業を行っていませんが、1学年8クラス全部でできたらと思っています。高校生からは、1クラスだけでズルい、私のクラスでもやってほしいという声もいただきました。

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普及連携チーム

電話:03-5990-5065  FAX:03-6279-4697

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