H28年度インタビュー第4回
●渡邊 ほのか(わたなべ ほのか)さん
早稲田大学 学生環境NPO環境ロドリゲス eco SMILE企画長
(社会科学部社会科学科2年生)
●荻野 綾花(おぎの あやか)さん
早稲田大学 学生環境NPO環境ロドリゲス eco SMILE副企画長
(先進理工学部応用化学科2年生)
早稲田大学に1997年に創設された「学生環境NPO 環境ロドリゲス」と呼ばれる大学公認のサークルがあります。「学生環境NPO」という呼称は、NPO法人(特定非営利活動法人)としての法人格を有していない任意団体ですが、特定非営利活動(営利を目的とせずに、環境の保全を図る活動)を行う団体であることを表明するために加えたといいます。
環境ロドリゲスは、現在7つの企画班に分かれ活動しています。今回のインタビューでは、その中でも最も活発に活動している企画班の一つで、子どもたちへの環境教育をテーマとしている「eco SMILE(エコスマイル)」の企画長、渡邊ほのかさんと副企画長の荻野綾花さんに、環境ロドリゲス、「eco SMILE」の活動内容について話をお聞きしました。
――環境ロドリゲスの発足経緯と活動概要について教えてください。
渡邊 ほのかさん
渡邊 ロドリゲス*1の歴史編纂プロジェクトがまとめた本があります。それによると発足は1997年で、ちょうどその年の12月にCOP3(地球温暖化防止京都会議)が開催されています。初代代表は「環境問題は研究室で起こっているのではない。社会の現場で起こっているのだ」という熱い思いがあったようです。環境問題の調査・研究はもとより、ローカルな現場での体験・実践といったボトムアップアプローチが必要なのではないかと考えたそうです。
それにCOP3の京都会議では、東京大学や慶應義塾大学、京都大学などの学生が質・量ともに現地で活躍している一方で、早稲田大学の学生はいなかったそうです。それで環境問題に取り組むには、自己満足のためのサークルではなく、NPOのような形で学生の力を統率するマネジメント能力が必要なことを痛切に感じたようです。
*1 「ロドリゲス」の名前の由来について:アフリカ大陸の南東、マダガスカル島近くの小さな島の名前です。種の絶滅が危惧されたドードー鳥の一種が最後まで棲息していました。ドードー鳥が暮らすことができた豊かな自然が「宝」である、豊かでかけがえのない自然を大切に受け継いでいこうという思いを込めて命名されました。
渡邊 「環境問題改善」「環境問題の解決に貢献」という理念は設立当初から変わっていませんが、第14期代で改めて「環境とは自然環境を意味する。気候変動、生物多様性、大気・水質・土壌汚染、資源・ごみ問題等を対象とする」と明文化されています。私たちは自分のことを何年生とか何年入学というより、初代から数えて第何期かで表現することが一般化していて、私と荻野さんは19期にあたります。
――現在の活動と団体の人数は?
荻野 綾花さん
荻野 基本的に幾つかある企画テーマについて、それをやりたい人が集まって活動します。ですから、時代に沿ってテーマが変わることもあれば、ある企画班の活動の継続が困難になって統廃合みたいなこともあります。
今は7つの企画班*2があります。私たちが所属するeco SMILEは2007年の発足で、環境ロドリゲスに現存する企画班の中では最年長企画班です。もともと環境教育に興味がある人がいて、それを実践する場がなかったので設立されたそうです。
今年(2016年)Dream Connection(ドリームコネクション)という企画班ができて7つになりました。ロドリゲス全体では約80名で、2つの企画班を掛け持ちしている人もいます。3年生は冬になると引退してしまうので、現在のeco SMILEは2年生8人、1年生10人で計18名です。
*2 環境ロドリゲス7つの企画班(カッコ内は班が掲げるテーマ)
(1)eco SMILE(環境×教育):子どもたちに環境啓発活動を行い、子どもたちが環境問題について主体的に考えられるようになるきっかけ作りをしています。地域のイベントへの出展や、福井県鯖江市での環境教育活動など、活動場所は様々です。
(2)えこのわぐま(環境×早稲田):身近なゴミ問題を解決し、それを知らない誰かにどう伝えるかをメンバーで話し合います。早稲田各地で行われる幾つものお祭りでのゴミ分別指導だけでなく、新歓期(新入生歓迎期)の早稲田キャンパスでビラ拾いも行います。
(3)REC(環境×地域活性):「新潟県佐渡島の自然環境を活かした地域活性」を目的として活動しています。主な活動である「佐渡旅」では、他大学の大学生も含めた学生を対象に8~9月の時期に佐渡で行う合宿で佐渡の方々の手伝いや体験プログラムなどを行います。
(4)Re-Cover(環境×商品開発):「資源循環型社会実現のため、再生素材の普及に努める」を理念に活動しています。具体的には再生素材を使った商品を開発し、生協やネットで販売しています。
(5)たまっこ(環境×川):「多摩川フィールドワークを通して、身近な自然を守る」を活動理念としています。
(6)やまなび(環境×里山):里山での体験型ワークキャンプを通じて、とくに「林業の直面する課題」「鳥獣害」など、里山の抱える問題について学んでいます。
(7)Dream Connection:2016年3月に発足した企画です。「環境に興味がある学生が学びたいことを応援する」ことを目的として活動をします。
――ところでお二人は環境問題に興味があって、ロドリゲスに入ったのですか?
渡邊 いえ、最初はあんまり(笑)。新入生歓迎の折に、たまたまロドリゲスの人に声をかけられて、1回ブースを見に行くくらいはいいかなと…。サークル活動への参加が先にあって、そこでいろいろな役割を任されたりしているうちにだんだん環境問題への興味や関心が芽生えていった感じです。
――今や2年生でeco SMILE企画長ですよ。結構のめりこんじゃった?
渡邊 はい。もう、すっかりのめりこんじゃってますね(笑)。
――荻野さんは? 理工系の学部ですね。
荻野 先進理工学部の建物は早稲田キャンパスと違って西早稲田キャンパスにあるんですけど、早稲田キャンパスの新入生歓迎はすごいと聞いていて、実際に見に行った時に声をかけてもらって入りました。多少環境問題に興味はあったのですが、それよりも誘ってくれた先輩の雰囲気が良かったものですから。それが大きいですね。
――ロドリゲスの中でeco SMILEを選んだ理由は?
渡邊 新入生歓迎の時に各グループが日をずらして見学会というかミーティングをします。その中で一番やってみたい活動でしたので。
荻野 普段の活動の様子をプレゼンテーションしてくれるんです。それを見て選びました。
――そうすると、今年の新入生歓迎では、eco SMILEとして渡邊さん、荻野さんの腕の見せどころとか、あったのですか。
渡邊 いえ、今年度の新入生歓迎は、私たちの1つ上の先輩方が頑張ってくださいました。私たちの腕の見せどころは来年度ですね(笑)。
荻野 企画班の間で「そっちはたくさん入っていいな」とかはありますね。どういう訳かロドリゲスも私たちのeco SMILEも、毎年、文系と理系、それに男子と女子がちょうど半々ぐらい。それが上手く活動できている理由の一つではないかと思っています。
――eco SMILEの現在の活動について教えてください。
渡邊 毎週水曜日18時半から学館内でミーティングをし、そこで活動内容や方針をみんなで話し合います。主に取り組んでいる活動は三つあります。一つは福井県鯖江市での子供たちを対象とした環境イベント、二つ目が近隣の小学校での環境授業、三つ目は各種のイベントへの出展です。荻野さんは鯖江訪問の統括をしています。
――鯖江市って遠いですね。活動のきっかけはどのように?
渡邊 2009年に、鯖江市と関わりのある団体から環境に関するワークショップの依頼があったのが始まりで、それが現在まで継続しています。
――現在は鯖江市でどのような活動をなさっているのでしょう。
荻野 昨年までは年1回でしたが、今年(2016年)から春休みと夏休みの年2回訪問しています。春は2日間のイベント、夏は4日間の「ユーカル×わせだエコランド」と呼ばれるイベントを開催しました。ユーカルというのは、「ユーカルさばえ」という市の青少年施設の名前からです。eco SMILEの鯖江市での活動拠点であり、私たちが宿泊させてもらう施設でもあります。
――夏の4日間のイベントの内容は?
渡邊 一日ごとに、「食」「都市」「気候」「自然」をテーマにした環境イベントです。午前中は、勉強のわからないところを個別に学べるオープンスクールの開催、午後はドッチボールなどのレクリエーションとメインのイベントである、各テーマに沿った内容の講義をします。その他にも、小学校低学年を対象に「水」についての授業も実施しました。
――鯖江まで行くのも大変ですね。交通費もかかるし、どうしているのですか?
荻野 はい大変と言えば、大変ですね(笑)。春は3泊4日、夏は準備も含めて1週間の泊まり込みです。eco SMILEの23名ほぼ全員の参加でした。夜行バスで一晩かけていきますが、大人数で行くのは楽しいですよ。
――食事は?
荻野 調理室があるのでそこを借りて自炊です。さながら合宿のような慌ただしい一週間(笑)。イベントのテーマごとに4つの班に分かれて作業するのですが、合宿する上では別に、会計担当とか、交通担当、生活担当などのグループに分けて役割分担しています。
渡邊 自炊ではグループごとに競争したり、ちょっと時間が空いた就寝前にはトランプしたり…。それと最終日には現地の関係者と交流会を開催しますが、それがすごく楽しい。
――大学近隣の小学校で環境授業を実施したと聞きましたが…。
渡邊 小学校での環境授業の実施はみんなの希望でした。16、17期代の先輩方が地道にアプローチしてくれたおかげで、18期代、私たちが一年生の時にようやく実現しました。大学近隣の小学校が引き受けてくれたのです。
――授業の内容はどういうものですか。
渡邊 今年(2016年)の3月と9月に5年生を対象にした「新エネルギーでまちに電気をつけよう!」という授業を実施しました。子供たちと一緒に、電池は既成のものですが、太陽光発電、それとペットボトルを使って風力発電、水力発電のキットを作り、それをまちの模型に設置していきます。ビルの屋上、住宅の屋根、海の上、山の上など様々な場所に設置した場合に、それぞれどんなメリット、デメリットが生じるか、ワークシートにまとめてもらいます。
そして最後に、それぞれの発電の仕組みを学んで、自然の力からエネルギーを創り出す方法があることを改めて理解してもらうのです。
授業の様子
荻野 発電体験がメインですので、準備のために、家の模型、LED、モータ、プロペラ、手動の発電機、銅板に亜鉛版など、必要な備品を持ち込みます。街の模型は私たち大学生が手づくりしています。大学生になって、子供みたいな工作をするのも恥ずかしいですが、とても楽しいです。
渡邊 3月は、45分2コマ×1日だけ実施していたのですが、コンパクトにまとめるのはもったいないということで、9月には45分2コマ×2日間の実施になったのです。
――子供たちの反応は?
荻野 「楽しかった」「分かりやすかった」とか、教材も好評でした。中には「大学生ともっと話がしたかった、交流したかった」みたいな感じの感想を書いている子もいましたね。
――もっと話がしたかったというのは、結構好かれてるということでしょ?
荻野 何だか遊び相手みたいで…(笑)。でも、うれしい感想ですね。
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eco SMILEメンバーによる講義
――三つ目の各種イベントへの出展というのは?
渡邊 2か月に1度ぐらいの頻度で外部のイベントに出展しています。まず1月のイベント出展では、3Rをテーマにクイズやゲームをします。続いて4月、6月にも別のイベントへ出展します。
10月には学内の「文化芸術週間」があります。これはロドリゲス全体での出展で、工作班と実験班に分かれて、工作班はどんぐりアート、でんでん太鼓など、実験班は自然エネルギーの発電体験、「野菜&くだもの電池」も行いました。11月には、近隣の商店街への出展などが続きます。
荻野 それと新歓期のビラ拾いもロドリゲスの取り組みとして有名です。構内に散らばったビラを拾い集めてリサイクルします。今年は292.3kgもありました。
――忙しいし、お金もかかりますね。
渡邊 教材作成など、基本的には自己負担です。半期ごとに会費が徴収され、足りない時はロドリゲス全体の会計から賄うこともあります。
それと、お金がないとか時間がない、課題をやらなくてはっていう声はよく聞きますね。でも、鯖江市のイベントや近隣の小学校での環境授業を通じて、子供たちが環境問題に興味を抱いていくのがわかるのはとてもうれしくてやりがいがあります。私たちも活動を通じて色々なことを学びました。
荻野 忙しいといえば、ホントに忙しいです。授業受けて、アルバイトやって、インターンシップに行かなければという人もいたり…。でも、とても充実しています。
私も渡邊さんもまだ進路は決めていませんが、こうした活動を通じて色々な方々と出会ったし、何らかの形で経験を活かしたいと思っています。
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