H26年度インタビュー第1回
【気象キャスターネットワーク(WCN)とは】
全国で活躍する気象キャスターとその経験者、気象予報士などが一体となって、地球環境問題の解決や気象災害の軽減に関する知識の普及と啓発活動を行うことを目的として、2004年に設立された特定非営利活動法人。会員についてお聞きすると「別に気象予報士の資格は要りませんし、気象の業務をしていなくてもいいんです。気象キャスターになりたい人や学校の先生をしている会員もいます」とのこと。興味のある方はぜひWCNのホームページ(http://www.weathercaster.jp/)を覗いてみることをお勧めする。各種のイベントや啓発活動の案内に加えて、テレビで良くみる著名な「お天気キャスター」の会員紹介やブログなど、楽しめるホームページになっている。会員数は271名(2014年4月現在)
気象キャスターネットワーク(WCN)では、気象・環境・防災に関する「学校出前事業」「親子向け実験講座」や講演会・企業研修、「気象キャスター養成講座」など各種のイベントや啓発活動を展開している。とりわけ、子どもたちを対象とした環境教育、地球温暖化防止の教育に力を注いできた。今後も「気象キャスターとして、私たちなりのメッセージを込めて、品質の高いイベントや授業を提供していきたい」という。その活動についてお聞きした。
――「気象予報士」という国家資格が20年前の1994年にできました。その10年後の2004年、つまり今から10年前に「気象キャスターネットワーク」が設立されています。どのような経緯があったのでしょうか。
岩谷 忠幸さん
岩谷 20年前には、若い気象キャスターはあまりいなかったのです。それまでは、気象庁のOBがテレビの天気予報に多く出演していました。「寒冷前線のことを寒冷じぇんしぇん」の話し方で視聴者に人気のあった福井さんなどです。味がありましたよね。それから天気予報の自由化が進められて、その一環として気象予報士の制度が作られました。天気予報には当然専門知識が要求されますし、経験がものをいう。ですから若い人に出番はなかった。そこに「気象予報士」という資格ができて、一つの基準ができあがった。そこから比較的若い20代、30代ぐらいの人が気象キャスターとして出始めるようになったのです。ちょうどその頃、京都議定書の話や地球温暖化が問題になりつつあった。
――京都議定書が採択されたのが1997年ですね。
岩谷 私は当時、気象会社を辞めてフリーになり、フジテレビで仕事をしていましたが、テレビの番組の中で、気象災害であるとか異常気象、温暖化の話も含めて、話題に取り上げることが増えてきました。それ以前は気象だけを扱っていましたが、テレビで仕事をしていると、お天気の話だけじゃなくて環境も含めて、理科全体、科学教育みたいなところまで対象が拡がっていく。その中で地球温暖化が大きなトレンドというか、重要なキーワードになってきました。同時に、気象キャスターと呼ばれる仲間が色々な場所で仕事をして何年か経ってきたので、一緒に何かできないかということで、今、NHKに出ている平井信行さんと、現在WCN代表をしている藤森涼子さんと相談してNPOを立ち上げることになりました。
目的の一つは、自分たちの後輩を育てること。気象予報士の資格は持っていても、気象庁OBのような豊富な経験も知識もありません。ペーパードライバーみたいなものですね。キャスターという仕事柄、ものごとを人にわかりやすく伝える能力も問われます。こうした人たちも含めて、気象キャスターという自分たちの価値を上げていかないといけないね、ということです。もう一つは地球温暖化の話が話題になってきたところで、普段はテレビやカメラにしか向かっていませんけれども、NPOの活動の中で、子どもたちに直接伝える場をもちたい。そこで始めたのが、「学校出前授業」や「親子向け実験講座」などです。
――WCNは「地球温暖化防止活動環境大臣賞」など数々の賞を受賞なさっていますね。出前授業ではどんなことをなさっているのでしょう。
岩谷 まずは「お天気」の話が入口です。「理科」の課目の中に天気の項目があるのですが、じつは学校の先生が最も苦手にしていて教えにくいといわれています。そこで、空の見方や気温の変化など天気の仕組み、危険な兆候をどうやって見つけるかなど、天気の話を環境や防災教育などにつなげます。その背景として、温暖化や気候変動の話に展開していくわけです。映像や写真、それに実験やワークショップを織り交ぜた授業です。
――授業での子どもたちの反応はいかがですか?
岩谷 子どもたちは環境については多少習ってきていますが、ごみの話など身近な環境問題が多いのです。もうちょっとグローバルな地球全体、地球温暖化の兆候の話を理解すると、何かしなきゃいけないという反応がすごく伝わってきますね。最初の頃の失敗例ですが、危機感を前面に出すと、泣き出す子供もいたんです。感受性が非常に強い。今置かれている自分の将来を想像したときに、あと50年先、100年後って、地球どうなちゃうんだろうみたいな。ですから、不安をあまりかきたてないように、子どもたちの将来の仕事に対しての夢の話を交えるなど、明るい未来が想像できるような工夫をしています。
――実験やワークショップの話がありました。
岩谷 お話だけでは子どもたちに楽しく学んでもらえません。やはり科学の楽しさ、気象科学の面白さを味わってもらうことで、気象や環境のことを理解してもらいたい。ですから、実験や工作は必ず行います。「雨粒の形」「竜巻」を再現する実験や、親子向け講座では、手回し発電機やソーラーパネルでの発電、鉄道模型を使ったエネルギーに関する体験コーナーなど、参加型でかつ親子で楽しめる内容にしています。
出前授業や親子向け講座は、地元のテレビに出演中の気象キャスターが主に担当しますが、テーマは「楽しく雲を作り、雨をはかろう」、「水のふしぎ、水のちから」、「実験 ! よくわかる地球温暖化」など幅広くお受けしています。屋外での自然体験講座や、先日は東日本大震災被災地支援イベントとして「お天気実験教室」なども実施しました。
――さきほど「竜巻」の再現実験の話が出ましたが、実験道具などは?
岩谷 準備するのは大変です。事務局で手作りすることもあれば、オリジナルの実験装置をオーダーメイドで作ってもらうもあります。これまで出前授業は、2004年以降、10年間で4,000校以上やってきましたから、それまでの蓄積やノウハウで何とかしのいでいる、という感じですね。ともかくお金がかかって苦労しています。「竜巻発生装置」の話ですが、これまでドライアイスを使う装置はあったのですが、ドライアイスは大変なので、加湿器で使える実験装置を作ってもらったのです。
――ドライアイスが大変というのは?
岩谷 実験のたびにドライアイスを買わなければなりませんから。それに費用がかかる。加湿器にすれば水は蛇口から出てきます。そこでオーダーメイドしたのですが、メーカーさんからは、「じゃあ作ってみるから、その製品を売るのも手伝ってほしい」と。何台も売ることができれば開発費用が回収できるということで。結局、うちで20台ぐらい売りました。講演だけだと誰でもできます。オリジナリティをもって自分たちの価値を高めていけるようなイベントにしないと喜んでもらえません。
――ところで、小学生以下の子供向けのイベントはありますか。
幼稚園でのイベントの様子 |
「サイぼうくん」も登場 |
岩谷 幼稚園でもやってます。最初、40分間の催しを予定したのですが、幼稚園の先生からは幼児はすぐ飽きてしまうからそんなにもちませんといわれました。ところが40分間できた。その代わりすごいメニューの連続で。歌と踊りと寸劇ですから、大変です。(笑)
防災キャラクターの「サイぼうくん」に扮した人と先生役の寸劇で、地震が来たらこんなポーズとか、津波が来たらチーターのポーズで走るとか、反射的に覚えてもらう。「サイぼうくん」が黄色いキャラクターですから、男性に全身黄色いタイツを着てもらう。
――タイツ? 着ぐるみではないんですか?
岩谷 いやあ、これも予算の関係でタイツなんです(笑)。幼稚園はとにかく若い人でないと務まらない。劇やって踊って、最後はお天気や地震にまつわる歌を歌って、ですから。
――岩谷さんは事務局長の仕事をしながら講師役も?
岩谷 最近、子供向けの講師役はたまにしかできません。若い人たちに行ってもらう。そのための指導とか、実際に講師をしているところを見て勉強してもらう。それと事務局の運営ですね。
――講師をなさっている若い方々の感想はいかがでしょう。
岩谷 気象キャスターは常にカメラを相手にしていますが、カメラが反応するわけではありません。ですから、自分だけ納得している状態なんですけど、子どもたちの前ですと、つまらない話をしていると話を聞かずにすぐ騒ぎ始めます。これは面白くないんだなと。ですから勉強になりますし、同時にやりがいを感じる。やっぱり仕事柄、人に伝えること、そこにすごくやりがいを感じる。若い人たちも私も一緒です。
――これまでNPOとして10年間活動を継続されてきましたが、事務局としてご苦労された点はありますか?
岩谷 私たちの活動は、企業のCSRとしての協賛や国・地方自治体からの委託で支えられている部分が多いのです。そうすると、国・自治体の予算は1年単位ですし、企業さんの経営動向に左右されることもあります。一方で、何らかのイベント開催を依頼されると、気象キャスターとして私たちなりの品質を持ったイベントを提供したい。地球環境問題や子どもたちへの教育はせめて10年間ぐらいの視野で見て欲しい。それに実験の道具作りや資料づくり、また講演の営業やスケジュール調整なども事務局が担います。それなりの労力、資金が必要です。皆さん、NPO活動というと無償で労力を提供するボランティア活動のように思いがちです。ボランティア精神は大切ですが、この事務所には環境問題に意欲を持って常勤してもらっている若い人も数人います。ここでお支払いできる給料はそれほど多くはありませんが、せめてその人たちの生活は保証したい。この活動を継続していくためにも経済的に健全な経営を心掛けていきたいですね。
――最後に今後の活動についてお聞かせ下さい。
岩谷 やっぱり僕たちの伝えたいことは、自分たちの役割として、地球温暖化防止に少しでも役立てたい、異常気象による災害で命を落とすことがないように、という点に尽きるのです。さきほどこれまでに4,000校以上の学校で出前事業を実施してきたと申し上げましたが、全国の小学生全員が1回でも私たちの授業を受ける機会を持ってほしい。小学校は2万校あるのですが、そんな思いです。
それから、今回は子ども向けの環境講座の話が中心になりましたが、気象、環境、防災に関するコンテンツ制作や、自治体や企業向けの講演・研修も積極的にお引き受けしています。是非、声をおかけいただきたいですね。
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