H26年度インタビュー第3回
●新道 洋介(しんどう ようすけ)さん
大和ハウス工業株式会社 技術本部環境部 企画温暖化対策推進グループ グループ長
●出口 幸枝(でぐち さちえ)さん
大和ハウス工業株式会社 技術本部環境部 企画温暖化対策推進グループ 主任
大和ハウスはテレビCMでもおなじみ。以前、CMに出てきたダイワマンは子供たちに人気があったそうだ。大和ハウスグループは、戸建・賃貸・マンションなどの住宅事業を中心としたハウジング分野、商業・物流・医療介護施設などのビジネス分野、リゾート施設・ホームセンター運営などのライフ分野など、その事業は多岐にわたっている。「ハウスメーカーとお呼びして良いのですか?」という問いに「最近は、ハウスメーカーの枠を大きく超えた、多彩な事業を持つ複合事業体です」との答え。それだけに、くらしに直結する環境問題への取組みは本格的だ。これまで『地球環境大賞』『省エネ大賞』『エコプロダクツ大賞』など受賞歴も多数。その大和ハウスが、『こどもエコ・ワークショップ』を2005年から展開している。自然を活かした「エコな家」の模型を作ってもらい、地球環境問題を一緒に考えていくという。運営に携わるリーダーの新道さん、実際にワークショップの司会もするという出口さんにお聞きした。
――ワークショップはどんなふうに進めているのでしょう。
新道洋介さんと出口幸枝さん
こどもエコ・ワークショップ
開催の様子
新道 家の模型作りには二つのパターンがあります。『夏涼しくて気持ちいいエコな家をつくろう!』と『冬あたたかくて気持ちいいエコな家をつくろう!』の二つです。
ワークショップは『エコの達人』と呼んでいるリーダーと数人のスタッフで運営しますが、最初は達人のお話やクイズで始めます。例えば夏のバージョンでは、暑いと感じたときの行動から涼しい家のヒント探しをします。「日射しが強いから帽子をかぶる」、「暑く感じるとうちわであおいだり、水を飲む」などですね。
それに、世界のさまざまな国や地域の自然を活かした伝統的な住まいを紹介します。
例えば、パキスタンの南東部に見られる、風窓によって風を家の中に導き入れる構造の「風窓のある家」などです。こうして夏涼しい家のヒントを学んでもらいます。
私どもは、「日かげをつくる」「風にあたる」「汗をかく(蒸発冷却)」の三つを、家を涼しくするヒントと呼んでいます。
涼しくするには、家も人間も同じだということが理解してもらえるわけです。
――それから家の模型作りに入るわけですね。『達人』の作った見本を見てもらったりはしないのでしょうか。
出口 それは最後に見てもらいますね。最初に見せると子どもたちがそのイメージにとらわれてしまいますから。子どもたちは達人から先ほどの三つのヒントだけもらって、あとはそれをどう家模型に取り入れるかは子どもたちの自由な発想にまかせます。
――家模型の材料はどうなっているのでしょう。
新道 材料は2種類に分けられます。材料1として、家を作る柱材、骨組みや敷地など、ボール紙と各種の工作道具など、必要最低限の材料を1 セットお渡しします。材料2は家模型を工夫する材料を会場の後ろの方にまとめておきます。
粘土、フェルト、綿、色のついたチリ紙、ストロー等も用意してあります。これは自分で必要な分、好きなだけ取ってきて使います。夏にはすだれの小さいバージョンも。ですから、材料1は夏と冬共通で、材料2は夏と冬のバージョンがあるわけです。
出口 開催場所によっては、材料になりそうなものがあれば持ってきて、と前もって伝えておくと、家にあったモールや包装紙、ハギレなどを持ちこんで工夫していますね。
材料1家の骨組みと敷地 |
材料2エコを工夫する材料 |
――子どもたちは、材料を前にしてすぐ作り始めますか?
第21回 科学教室
出口 実際に作り始めようとするのですが、最初の10分位はすごく考え込んでいます。
しばらくの間、どういう家にしようか四角形の家の骨組みと敷地、工夫材料を前にして、とまどっている感じが伝わってきますね。
――実際に工作している間はいかがですか?
出口 最初とまどっていた子どもたちも一度作りたい家が決まると、とても楽しそうに作り始めます。小学3,4年生の場合は親子で隣同士に座って一緒に作ってもらうこともありますが、保護者の方も一緒になって楽しんでいます。どちらかといえば女の子は内装に興味を持ってカーテンをどうしようとか中に人形を入れるなどの工夫し、男の子は外観にこだわってユニークな形の家や庭を工夫していることが多いです(笑)。
――これまでの子どもたちの家模型の写真を見せてもらいましたが、たった三つのヒントでいろいろな家を発想するのですね。
出口 本当にすごいです。子どもたちの柔軟な発想に私たち大人がびっくりしますね。別に屋上緑化など難しい話はしないのですが、緑や水があると涼しいね。風通しが良いと涼しく感じるね。というヒントを頼りに作るのでしょうね。気軽な感じで屋上に池を作ったり、庭園を作ったりします。それに、これ(写真左)は木にはしごをかけてその上に家を作っています。もうツリーハウスですね(笑)。それから、高床式にしている家もあります。
――いろいろですね。ほかにも?
出口 銀紙を貼ったソーラーパネルの家。あと、庇(ひさし)がとても長い家や六角形の家もありました(笑)。
ツリーハウス |
高床式の家 |
屋上に庭園がある家 |
出口 子どもたちには、作った後で「エコな家」の工夫した点について発表してもらうのですが、自分の作った家がどのようにエコなのか、ちゃんと意見を言ってくれます。そして、最後に達人からの解説です。その土地ならではの風や水、太陽の光や熱など自然の力を上手に利用して、快適に暮らす工夫を紹介して終了になります。約2時間のワークショップです。
――夏涼しくする3つのヒントはさきほどお聞きしました。誌面の都合もあるので詳しくお聞き出来ませんが、冬に家をあたたかくする3つのヒントを教えて下さい。
新道 はい、一番目が「さわるとあたたかいものを着る」、二番目が「風にあたらないようにする」、そして三つ目が「太陽のあたたかさを使う」です。
達人の家(夏) |
達人の家(冬) |
――ワークショップの様子をお聞きすると、楽しそうですね。
出口 アンケートでも「楽しかった」、というのが一番多いですね。お孫さんと参加された方から「一緒に模型作りを楽しみ、夏休みの良い経験になりました」という声もいただいています。それに「今までの自分の生活がエコじゃない暮らしだったんだなあ」という声も。
――開催趣旨に「親子が環境問題について一緒に考え、身近に感じ、できることを発見する場を提供する」とありますが、その意図が実践されているのがわかります。
新道 そうですね。こうしたワークショップを機会に、自然を活かした住まい方や家屋の断熱の必要性について、お子さんに知ってもらうだけでなく、保護者の方にも再認識してもらえます。やっぱり、私どものお客様との一番の接点は住宅です。今住んでいる家のことについていろいろ考えていただくことはありがたいことですね。
――この「こどもエコ・ワークショップ~家模型づくり編~」は、2010年に、第4回キッズデザイン賞を受賞しています。そもそも開催のきっかけはどんなことだったのでしょう。
シマウマのエアコン
新道 当社は今年4月5日に60周年を迎えますが、10年前の2005年に50周年事業の一環として、ゼロエミッションの提唱者であるグンター・パウリ氏(トリノ大学(伊)教授 ※2005年当時)を招聘して『動物から学ぼう、すまいづくりの知恵 ! 』というワークショップを開催したのがきっかけです。パウリ氏は『シマウマのエアコン』等、環境や自然を対象にした絵本の作者です。また当社の東北工場の事務所棟に地中熱を利用した空調換気システムを導入したのですが、その際に指導いただいたという縁もありました。
出口 「家の模型を作る」という形になったのは2007年からです。社外の団体と共働で企画・制作し、多くの方に体験して頂けるよう、家模型をつくるワークショッププログラムを開発しました。
――ところで、このワークショップ開催や募集はどのように?
新道 私どもが募集して主催する場合と、小中学校や市の児童センターなどから開催依頼がある場合の二つのパターンがあります。
弊社では、事業所の地域共生推進委員(CSR担当)とエコサポーター(環境担当)が、地域の小学校や自治体と連携した社会貢献活動を推進していますが、これらの担当者が小学校から環境に関するワークショップをしたいというご要望をいただいたり、NPO団体と一緒に開催することもあります。また、当社のホームページをご覧になった方から直接お申込みいただくことも多いですね。
――参加するには費用がかかりますか?
新道 弊社主催の場合は無料です。外部からご依頼があった場合は、模型費用をご負担いただくことになります。
――どちらの割合が多いでしょう。
出口 弊社主催が3分の2ぐらい、残り3分の1が外部からのご依頼、という感じです。
――これまでの参加者はどのくらいになりますか?
出口 昨年度(2013年度)は124名、本年度は4月~12月までで123名です。2005年度からの累計参加者は、昨年3月末までで5,224名になります。なお、東京都では過去5年間で182名(6回開催)参加いただいていますね。
――子どもや保護者を対象にワーク・ショップを開催するときに気を付けている点などがあれば教えてください。
新道 2時間のワークショップという関係もあり、お子さんの手が遅いと保護者がアドバイスしたり、手を出し始めてしまうこともあるんです。そうした場合でも、あくまでもお子さんが自分で考え、企画し、手を動かすということを一番大切に、ワークショップを運営するように心がけています。
出口 子どもと一緒に作っているうちに、保護者が結構本気になってくるというのはありますね。
――そういう場合に、親御さんに声をかけたりは?
出口 まず、お子さんに「どんな感じの家を作りたいの?」と希望を聞いて、保護者の方にそれをサポートしていただけるよう進めていきます。
時間が少々延長することもありますが、それでも参加者の方々が作った模型を手にして、楽しげに会話しながらお帰りになるのを見るのが、私どもにとって一番うれしいことです。
そして、家に帰られてから達人のヒントを元に、「風の流れを考えて家の窓を開ける」など、実際の生活の中で省エネにつながる行動を実践されるという話しをお聞きすると、開催して本当に良かったと実感します。
今後も弊社がワークショップを全国で実施していくことで、「エコな家」の取り組みがより多くの人に広がっていければうれしいですね。
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