H27年度インタビュー第1回
●菊池 太佑(きくち だいすけ)さん
港区環境リサイクル支援部 環境課地球環境係 主任
●岡本 和也(おかもと かずや)さん
港区環境リサイクル支援部 環境課地球環境係 主任
地球温暖化対策のために、家庭や職場での“省エネ・節電”への取り組みを支援する自治体は数多くあります。しかし、これまでマンションの共用部分を対象にした省エネ支援策を講じた自治体はなかったようです。マンションは、マンションを所有する人(区分所有者)の専有部分と管理組合が管理する共用部分に分かれており、共用部分の対策を施すには住民の「合意形成」が要求されるなど、理事会や一部の関係者だけではうまく進められません。
そのマンション共用部分の“省エネ・節電”に初めて取り組んだのが東京都港区の「集合住宅向け省エネ取組支援事業」。港区では、区民の約9割がマンションに住んでいるそうです。この事業は平成25年度に開始されて今年で3年目を迎えました。「マンションの共用部分」に注目し、このアイデアを実施に移した岡本和也さんと菊池太佑さんにお話を伺いました。
――東京都ではこれまで家庭や事業所、ビルなどの省エネ診断を進めてきましたが、マンションの共有部分を対象にしたことはありませんでした。どのようなきっかけで始められたのでしょう。
菊池 太佑さん
岡本 和也さん
菊池 4年前の東日本大震災以降、節電や省エネの機運が高まりましたが、これはどこの自治体さんも同様だと思います。この機運の高まりを継続しながら、港区らしい取り組みにつなげられないかと考えました。実は港区はマンションが非常に多いのです。そこに目を付けました。
岡本 プロジェクトを立ち上げるにあたり、まず始めたのは実態を把握するための情報収集です。区民の9割ぐらいの人がマンション住まいということは知っていたのですが、実際、区内にマンションの管理組合がどのくらいあるのかも知らない程度のレベルからのスタートでした。数年前に都市計画課がマンション実態調査を実施しており、区内には、約1,800のマンション管理組合があることがわかりました。各家庭に対する省エネ対策をこれまで支援してきたので、さらにマンションの共用部分に焦点をあててみたら、省エネ効果も期待できるし、港区らしくて面白いんじゃないか、ということで始めたわけです。
――どのようなことから手をつけられたのでしょう。
岡本 単なる設備導入だけでなく、共用部分の省エネ化に向けた合意形成過程のサポートも含めた総合的な支援事業にしたかったので、公共的な立場でマンション管理組合に対して専門的な助言ができる団体を探しました。省エネの専門といえば、思いつくのが、クール・ネット東京や省エネルギーセンターです。そこで相談に伺うと、大変興味は示していただきましたが、家庭や事業所の省エネ診断の実績やノウハウは蓄積されているものの、マンションの共用部分に関しては、今まで実績がないようで…。
そこで、さらに調べて行くうちに、東京都マンション管理士会という団体に出会ったのです。マンション管理士の国家資格を有した方々の団体で、都内のマンション管理組合の相談窓口も持っています。マンション管理士のほかに一級建築士、建築設備士、電気主任技術者などプラスアルファの資格を持った方もいらっしゃって、マンション共用部分の省エネ診断や合意形成へのノウハウが豊富なため、区がまさに必要とするパートナーでした。東京都マンション管理士会も、区の事業趣旨に理解を示していただき、積極的に協力していただきました。
岡本 マンションの共用部分は、一人が何かやりたいと言い出しても実現するのは難しく、区分所有者間での「合意形成」が必要になります。対策の種類や導入する設備によっては、理事会決議だけではなく総会での「普通決議」「特別決議」が必要になるものがあることがわかってきました。また、マンション管理組合の代表者は、必ずしも共用部分の省エネに関する知識がある訳ではないので、共用部分の省エネ対策の紹介以外にも省エネ対策の実現に向けたマンション特有の手続にも触れたマニュアルがあると便利だと考え、東京都マンション管理士会と協力して「港区 マンション省エネガイドブック」を作りました。
菊池 東京都マンション管理士会が全体の構成と対策部分を担当し、私どもは利用者側の視点で一般の方にもわかりやすいように、対策効果の数値化や、イラストの挿入、文章の表現の仕方など、主に校正面を担当しました。この事業は3年目を迎えますが、他の自治体、例えば北区や台東区などからも同様のガイドブックを作りたいといった相談を受ける等、大きな反響がありました。
優れもの 「港区 マンション省エネガイドブック」 |
本ガイドブックの内容を若干紹介しておく。構成は、マンションにおける省エネ/照明器具/屋上防水と高反射率塗料/屋上緑化と生け垣造成/外壁塗装/玄関まわりの省エネ/日射調整フィルムの活用/インバータ制御エレベータへの変更/給水ポンプのインバータ化/給水方式の変更/次世代への対応/専有部分でできる省エネ等に加えて、情報編として、省エネ実施のための手続き/助成金・支援制度一覧/集合住宅省エネコンサルタント派遣案内など。照明では、マンションでLED化できる個所として、開放廊下、エントランスホール、エレベータホール、集会室、駐車場・駐輪場などがあげられ、また照明の人感センサー式への改善については、ごみ置き場、トランクルーム、通路などを紹介。年間光熱費の削減量も具体的に示されている。手続き編では、「理事会決議」「普通決議」「特別決議」などを必要とする省エネ項目があげられ、「普通決議」「特別決議」に関する注記も掲載されており、合意形成の進め方を具体的に説明している。「ワンポイント」「ここに注目」などのコラムとイラストを交え、マンションの特徴をとらえた、わかりやすく充実した内容になっている。 |
――この事業の名称は「集合住宅向け省エネ取組支援事業」となっています。事業の全体像を説明していただけますか。
菊池 集合住宅という用語を使っていますが、マンションと言った方が皆さんピンとくるようで、最近では、マンションという言葉を使っています。この事業は「港区マンション省エネガイドブックの配布」、「省エネコンサルタントの派遣」、「マンション向け省エネセミナーの開催」の3本柱になっています。一つめは「港区 マンション省エネガイドブックの配布」です。マンションの共用部分で導入できる省エネ設備を中心とした省エネ対策をまとめたガイドブックを各マンションに配布しています。二つめは「省エネコンサルタントの派遣」です。希望する管理組合に電気と建築設備の専門家を二人ペアで派遣して、設備の運用改善や設備改修について省エネ提案書を作成します。同時に区分所有者間の合意形成を円滑にすすめるための助言も行っています。
省エネコンサルタント派遣の様子 |
マンション向け省エネセミナーの様子 |
三つめは「マンション向け省エネセミナーの開催」です。マンション管理士等の専門家が講師になり、共用部分の省エネのポイントや、省エネコンサルタントの派遣による事例紹介などを行っています。
――申し込みはどのように募っているのでしょう?
岡本 最初は広報やホームページでお知らせするとか、区で把握している管理組合宛てにチラシを郵送しました。それ以外にも、担当二人でマンションに足を運んで直接チラシをポストに投函する等、地道な努力もしています。
菊池 管理組合との接点ということでは、省エネ設備等に対する助成金を環境課が担当しているので、助成金の申請をした管理組合にこの事業をご案内するなどして、申し込みに結びつけています。
*省エネ設備等に対する助成金:港区では「新エネルギー・省エネルギー機器等設置費用助成」制度を運用している。対象設備は、太陽光発電システム、太陽熱ソーラーシステム、ガス発電給湯器、日射調整フィルム、高効率空調機等々の新エネ・省エネ機器。特徴的なのは対象者が「区民」「中小企業者」「個人事業者」に加えて「管理組合等」、つまりマンションの共用部分を対象としていること。「管理組合等」の区分では、高断熱サッシ、人感センサー付照明なども対象機器になっている。詳しくは港区ホームページを参照されたい。
――これまでの実施状況と、省エネコンサルタントが作成する提案書で取り上げる項目にはどんな項目が多いのか教えてください。
菊池 事業開始が平成25年の7月で、省エネコンサルタントの派遣は、平成25年度が5棟で派遣回数が延べ10回、平成26年度は6棟で派遣回数が13回です。セミナーは平成25、26年度とも2回開催しています。
提案項目は、照明関係が一番多いです。LED化と人感センサー式への改善。照明はエントランスホールやエレベータホール、開放廊下など共用部分はたくさんあります。人感センサー付照明は、ごみ集積場や駐輪場等、常時点灯しなくてもよい場所等に活用されています。港区では、人感センサー付照明の導入に対する助成を行っていますので、省エネコンサルタントの提案に基づいて、区の助成金をうまく活用し、導入したマンションもあります。
省エネとは異なりますが、電気代の削減効果が大きいのは、電気の契約形態や契約電力の変更です。
”
省エネコンサルタントがヒアリングや現況確認をもとに作成した提案書の例
(クリックで拡大)
電気料金の明細を見て、「お宅のマンションはこういう契約だけど、過去の電気の使用状況をみてみると、特に使い方は変えなくても、契約を変更するだけで電気料金が下がる可能性がある」といったことをお伝えすると喜ばれます。エレベータや給水ポンプのインバータ化、給水の増圧直結方式への変更などもあります。内廊下のマンションでは廊下部分も空調を使っていますから、省エネ効果が期待できます。
岡本 ただ、エレベータや給水ポンプを替えたり、給水方式を変更したりするには資金が相当かかりますし、総会での決議も必要になってきます。そうすると、そのマンションの給水管更新工事や大規模改修時期に合わせられると都合がいい訳です。一般的に12年周期で大規模修繕が行われるようなので、10年とか20年刻みでちょうど大規模修繕を迎える手前のマンションをターゲットに、省エネコンサルやセミナーの案内を出すなどの工夫もしています。
岡本 この事業は、分譲マンションや賃貸マンション、アパートなども対象になりますが、やはり分譲マンションが多いですね。先程の1,800という数字はあくまでの区が把握しているマンションの管理組合数なので、把握できていないマンションの管理組合や賃貸住宅も合わせるともっと多くなります。その中でも応募してくれるのは熱心な理事長さんがいる管理組合です。そうしたマンションを訪問すると、省エネコンサルタントが改善点はあまりないよ、という話をされることもあります。つまり、ちゃんとできていますよ、安心してくださいと褒めるパターンも出てきました。資産価値の維持に熱心に取り組んでいる成果だと思います。改善点を指摘するだけではなく、できているところは褒めることで、管理組合の理事長さんも自信がつくと喜んでくれます。
菊池 マンション省エネセミナーには、これまでは専門家に講師になっていただいていたのですが、12月に行ったセミナーでは、管理組合の理事長に講師になってもらいました。この理事長は、省エネコンサルタント派遣を実際に活用し、区の助成金を使って人感センサー付照明を導入したマンションの理事長で、省エネや設備については全くの素人さんです。管理組合同士が話す方が、合意形成などの話については親近感も沸いて、実感が伴うでしょうし、「私みたいな素人でも、いろんな方から助言をもらいながら、省エネや省エネ設備の導入を進めていくことはできるということをみなさんに伝えたい」と熱心にお話しいただきました。
区の助成金を利用したい人が省エネコンサルタントの派遣に応募したり、省エネコンサルタントの派遣に応募した人がセミナーの受講生や講師になったり、ガイドブックを見た人が省エネコンサルタントの派遣に応募してくれたりと、様々な事業が連動し、マンションの省エネが進んできている気がしています。
事業が始まってまだ3年目ですから、省エネコンサルタントの派遣を利用していただいた管理組合は、現在、省エネ提案内容の実現に向けて検討している最中です。今後は、提案内容を実現するマンションの事例を蓄積し、省エネガイドブックや省エネセミナーに反映させていくなど、マンションが取り組む省エネの支援を充実させていきたいと思います。
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