各店舗が主体となって進めるエネルギー、そしてごみにおける気候変動対策
――店舗単位でのサステナビリティに対する取組について教えてください。
中村 渋谷ストアは、まさに自然光を有効利用した設計で作られた店舗です。朝が一番日の光が入って来ますが、お昼から夕方にかけて段々と光の入り具合が変わっていきます。そのため電源スイッチに番号を振って、朝は「1番」の照明だけをつける、お客様の声も参考に暗くなってきたと思ったら他の照明も順次点灯するといった運営の仕方をしています。そういった取組み方なので、自分のお家で省エネをするような感覚で取組んでいますね。
自然光を取り入れた設計は、夏になると店内がすごく暑くなってしまうという短所にもつながっています。こうしたことでお客様のご試着の際の不快感につながることもあるので、そうした場合には省エネと快適さを保てるよう、こまめに温度調整をするなどします。逆に、この建物は冬にとても寒くなってしまう特徴がありました。これは、モルタルの打ちっぱなしの床も原因の一つでした。老朽化もあり、改装を実施する際、古材での床に変更しました。結果として足元冷えが緩和され、私たちが働く環境としても良くなったし、空調の設定温度を少し下げても快適に過ごせます。 また、電気を使用する上で、匝瑳市のソーラーシェアリングで発電された再生可能な電気を使用しているということから、電気を使う上での安心感のようなものを感じることができます。
使用電気については、定期的に日本支社から支社全体のエネルギー使用量やその料金の一覧がシェアされるので、そうしたデータもチェックしながら、日々のスタッフ間のコミュニケーションの中で、改善点やさらに取組みを進められる点について話し合っています。
パタゴニア東京・渋谷ストアの中村氏
背景に映っている通り店舗前面がガラス張りで、自然光が差し込んでくる
(写真は当センター撮影)
――特に解決が難しかった事例は何でしょうか。
中村 私たちは省エネだけでなく、ごみの削減にも取り組んでいるのですが…
篠 パタゴニアでは無駄なものを消費しない、ごみを生み出さない事業運営を目指して「ゼロ・ウェイスト」にも全社的に取組んでいます。こうした調達やごみの問題も間接的にはCO2の問題ともつながっていています。先ほどお話した化石燃料由来の生地素材についてはリサイクル原料の使用によってなるべく新たに採掘する資源への依存を減らすのと同じように、日本支社のさまざまな調達においても環境・社会配慮を進め、焼却ごみを減らすことでCO2を削減できます。そのためゼロ・ウェイストもエネルギー問題と同じレベルで取組んでいきたいと考えています。
中村 そうした流れの中で店舗単位でも「ゼロ・ウェイスト」に取組んでいます。店舗から排出されるごみは、実は業務から出るごみよりもスタッフ個人が出すごみの方が多いのです。例えば、私が渋谷ストアに配属になった時には、スタッフが食べた昼ご飯から出るごみの問題がありました。渋谷ストアは学生の方や一人暮らしの若いスタッフが多かったのです。そうすると昼ご飯を自炊して持ってこられない場合、弁当などを買って帰ってくると店舗でごみが発生してしまいます。
プラスチック素材の弁当ごみはバージンポリエステルと同じくCO2排出の原因となってしまう
写真:photo AC ※パタゴニア東京・渋谷ストアに関連する画像ではありません。
そうした状況を目の当たりにして、まず近隣に注目しました。渋谷ストアがある「キャットストリート」と呼ばれるエリアにはキッチンカーや、個人商店が多く、そうしたお店でお弁当が販売されています。次にストアの中を見回したところ、キッチンスペースに持ち主不明のタッパーを発見しました。それを「活用してみよう」と。6種類ぐらいサイズがあったので「好きなタッパーを持ってキッチンカーに行こう」とスタッフに呼びかけ始めました。そうやってお弁当を買いに行くとやはり最初はお店の人にビックリされましたね(笑)。でも、そのうち地域でタッパーを持って歩く姿が目立ったのか、お弁当を売るお店からも「あ、パタゴニアのスタッフさんが来たね」って言ってくれて、大きな弁当箱を持っていくと大盛にしてくれるようになりました。普通に買いに行くと商品のやり取りだけですが、そういった周辺のお店とのコミュニケーションも増え、さらに私達の店舗から出るごみの量も減りました。こんな風にごみの削減を楽しみながらやっています。
渋谷駅と原宿・表参道を結ぶ「キャットストリート」は賑やかな商店街で、多くのファッション店舗や飲食店が立ち並ぶ
写真:photo AC
まだまだ取組みを進める必要がありますが、個人のプラスチックごみは着実に減ってきました。この取組みを開始した時から、業務ごみと個人ごみの分別を始めましたが、やがて個人ごみについては自宅へ持ち帰るようになりました。ほとんど店舗内でごみを出さないスタッフもいるので、個人で出したごみは各自で持ち帰りにすることにしたのです。それによって持ち帰る際にごみの量を意識するため、さらにごみを減らすという結果につながっています。現在も個人ごみの持ち帰りは続いていて、渋谷ストアから個人ごみは一切出ていませんし、スタッフが持ち帰っている個人ごみもかなり減っています。
社内の様々な主体が連携して店舗単位の取組みを推進
――業務ごみの削減についてはどのように取組まれているのでしょうか。
中村 業務ごみに関しては、店舗運営上どうしても削減できないものもあります。プラスチック製のフックやタグなど、細かいごみが結構出てきます。それらを今種類ごとに仕分けして貯め、種類ごとに素材や処理方法について調べています。そして、これまで焼却や埋め立てといった形で処分されていたものについては、リサイクル処理できるものについては処理方法を転換し、リサイクルできない場合はリサイクルできる素材のものに代替できないかなど可能な限りごみを生み出さない方法を調査しています。
ごみの削減にはまず使用料の削減や再利用を推進し、
それでも発生してしまうごみについては再資源化(リサイクル)を図っていく
出典:ゼロエミッション東京戦略
こうした処理方法や使用素材を変えることは、各店舗だけでは実現が難しいものも多くあります。業務ごみ削減の取組みは先にパタゴニア横浜・関内ストアで実践されていたのですが、同ストアのスタッフは日本支社の環境社会部門、店舗オペレーション担当者とコミュニケーションを取りながら、少しずつ使用素材や処理方法を変更させていました。こうした先駆的な取り組みも参考にしながら、私たち渋谷ストアも自分たちでできるごみ削減への取組みを考え、日本支社の協力が必要な場合は提案することもあります。
篠 事業運営の現場である各店舗が自立してゼロ・ウェイストについても取組み、業務ごみ・個人ごみなどを細かく仕分けしたことで、根本の原因そして具体的に次のステップとして当社としてやるべきことが可視化されたことは大きな成果のひとつと言えます。2020年4月からレジ袋を全廃することを決定したのも、過去から試行錯誤しながらストアで行ってきた取り組みを通じて、アパレルの店舗でありながらすでに83%ものお客様がマイバッグを持参いただいていたという事実があり、プラスチックごみの問題の解決に貢献し、コミュニティや環境に良い影響を与えていくためにもストアのスタッフがさらに取り組みを前進させることを望んだからです。
(新型コロナウイルス感染症拡大の影響による直営店の臨時休業などにより、お持ち帰り袋のご提供終了は2020年8月27日に延期しました。)
2019年10月、直営店でのレジ袋全廃を発表した
出典:パタゴニア プレスリリース
――パタゴニア全体としてどのような体制でサステナビリティ推進に取組んでいるのでしょうか。
篠 サステナビリティ推進のために各店舗でできることと、日本支社全体あるいはグローバル全体で取組まなければならないことがあると思います。課題の内容が、本社が管理するオペレーションや調達に起因する場合には、日本支社の環境社会部が本社の担当チームとコミュニケーションを取りながら、解決策を考えていきます。例えば商品を工場から日本支社の倉庫、そしてストアに配送する際の梱包資材等のごみ削減あるいは循環を実現したい場合、本社の物流部門と協働することが必要になってきます。
中村 一方で各店舗の裁量に任せられている面も大きいですね。「省エネ」だったり、「ゼロ・ウェイスト」を推進することを本社や日本支社から指示される訳ではなく、パタゴニアがサステナビリティ推進にチャレンジしていることをスタッフ一同が理解しているので、現場レベルで自主的に取組む文化がしっかりと根付いています。それに加えて、日本支社のリテール部門と各店舗のコミュニケーションが盛んで、他店舗の取組み内容やその進捗状況について情報交換しています。
篠 年に1回、「リテール・サステナビリティ」に関する会議があって、そこで全社的な方針も含めて様々な情報を共有し合っています。日常的な店舗運営の中でのベストプラティクスの共有や、取組みを進める中での疑問は社内SNSがあり、各店舗スタッフによって積極的に活用されています。このようにいくつものレベルでコミュニケーションが取れる体制を整えています。
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