H27年度インタビュー第4回
●日向 玄(ひなた げん)さん
台東区役所環境課 普及啓発・みどり担当 主事
台東区では、地球温暖化防止への取り組みの一環として、家庭向けには「我が家のCO2ダイエット宣言」、事業所向けには「我が社のCO2ダイエット宣言」と名付けた各種の取り組みとともに、充実した支援制度を構築して「たいとうストップ温暖化プロジェクト」を展開しています。なかでもユニークなのが「家庭・事業所向け無料ソーラー診断」。太陽光発電システムの導入においては、発電に適した立地なのか、本当に売電収入は得られるのか、また施工業者や近隣とのトラブルはないかなど、不安もあります。そこで考えたのが、安心して太陽光発電システムを導入するための診断制度です。東京都と東京都環境公社が公開している「東京ソーラー屋根台帳」も活用しているとのこと。「たいとうストップ温暖化プロジェクト」のことも含めて、ご担当の日向玄さんにお話を伺いました。
――各自治体では、家庭や中小規模事業所などに対して、太陽光発電システム導入のための助成制度を設けていますが、ソーラー診断というのは初めて聞きました。この事業の内容、また事業を始めた背景やきっかけはどのようなことだったのでしょう。
日向 玄さん
日向 家庭・事業所向けソーラー診断は、太陽光発電システムの導入を検討しているご家庭や事業所にソーラー診断士が訪問して、どのくらいの大きさのパネルが設置できるか、実際にどのくらいの発電量があるか、売電量はどうか、また建物の構造や立地条件が適しているかなどを無料でシミュレーションするものです。
この事業は平成25年度から始まったのですが、実は台東区でも平成21年度から太陽光発電システムへの助成を始めていて、その頃には助成件数は100件を超えていました。本事業が始まる以前から、全国でも太陽光発電システムは普及し始めていたのですが、設置業者とのトラブルが多く聞かれるようになっていました。また、システムの仕組みや設備の構造に関して一般の方には理解が難しいこともあり、よくわからないまま業者の言いなりで設置し、不具合が起こった後のアフターケア等をめぐってのトラブルになるケースもあったようです。例えば、来訪した業者に長時間、強引に勧誘されて契約してしまったとか、設置はしたものの予定通りの発電量がなく売電収入が入らない、工事がずさんで雨漏りが発生してしまったなど、販売面やシステムの内容、施工内容まで様々です。そのような状況から、消費者庁をはじめ、関係各機関が注意喚起をしていました。
そこで、区としてどうしたら安全で安心な太陽光発電システムの導入ができるだろうかと考え、この事業を立ち上げました。省エネルギー診断は多くの自治体が実施していますが、ソーラーに特化した診断はありませんでしたので、全国に先駆けてやってみよう、というのがきっかけでした。
――このソーラー診断を委託する事業者はどのように選定したのですか。また、その折に配慮した点についてお聞かせください。
日向 事業の委託形態は、このソーラー診断だけではなく、本区全体の三つの省エネ専門家派遣事業として契約しています。一つ目は、省エネの専門家であるエコアドバイザーの派遣で、これは個々の事業所で省エネ診断を実施し、診断結果を提案書としてまとめます。二つ目は、業種別の省エネモデルを作成して、事業者団体の会合などでセミナーの講師を務めてもらいます。三つ目が、このソーラー診断です。
省エネ診断を実施する方には、一級建築士または電気設備等に関する専門資格をもつことを条件としています。ソーラー診断に関しては、太陽光発電システムに関する豊富な知識を持ち合わせた人材を派遣できるか否かに重点をおき、太陽光発電アドバイザーという資格を持つ人材が在籍することを考慮した上で、選定いたしました。これらの条件をクリアできる事業者は、そう数多くあるわけではありません。
――この「ソーラー診断」には、東京都と東京都環境公社が公開している「東京ソーラー屋根台帳」を利用されていると伺ったのですが…。
日向 確か、東京ソーラー屋根台帳が公開されたのが平成25年度末でしたね。私どもがこの診断事業を始めたのもこの年ですが、屋根台帳の公開が前提だったわけではありません。ただ、実際に使ってみると、その場所が太陽光発電に適しているかどうかが、赤色が「適」で、黄色が「条件付き適」と色表示されてわかりやすかったです。
*「東京ソーラー屋根台帳」について:航空測量データを利用した3次元モデル解析により、建物ごとに太陽光発電および太陽熱利用システムへの適合度(ポテンシャル)を計算し、地図上で色分けしてわかりやすく示すことができるWEBマップ。簡単操作で、だれでも利用可能。住所検索にも対応している。ドイツ等で導入が進んでいるが、国内では東京都が初めて導入した。平成27年度の「新エネ大賞(新エネルギー財団会長賞)」を受賞。
東京ソーラー屋根台帳 WEB画面
日向 ソーラー導入の補助金を申請する人などは、すでにこれを見てきて「うちはつけられますよね」という方もいらっしゃったりと、浸透しているようです。特に事業所の方は知っているケースが多かったです。「これで黄色だったんだけど、もう少し詳しく知りたい」ということで診断を受けてもらうこともできますね。
――実際の診断はどのように進められるのでしょう。
日向 申請を受けるとソーラー診断士と区の職員が同行し、現地調査をします。前もって屋根台帳で概略の目途をつけて現地に赴きますが、この屋根台帳は航空測量データで作られているので、建物の細かい陰などは考慮されていませんし、立地条件もそれぞれです。一般個人の方は、この屋根台帳のことをご存知ない方もいらっしゃるので、その場で東京ソーラー屋根台帳をお見せして、本当に適しているかどうかをこれから細かく見ていく、という使い方ですね。ソーラー診断士が、このソーラー屋根台帳の説明も踏まえて進めています。
無料のソーラー診断の様子
――この事業の活用状況、診断実績はいかがでしょう。
日向 これまでの診断実績は、個人宅・共同住宅向けで9件、このうちマンションが2件ありました。事業所向けは6件です。診断件数が少ない理由の一つが、新築と建て替えは診断の対象外になっていることだと思われます。既存のビルや住宅に設置する場合は、具体的に計算ができますが、建て替えや新築では図面だけになることもあって、精緻な診断ができないからです。もう一つは、区内の上野や秋葉原付近など住宅や中小のビルがひしめくエリアでは、太陽エネルギー機器の導入促進がなかなか難しいという現状があります。残念ながら、今のところ、診断を受けた方からの助成金申し込みはありません。
一方、ソーラー診断とは別に、家庭用の太陽光発電への助成金の申請件数は、平成24年度が46件、25年度が21件、26年度が18件と、それなりにあるものの、年々減っているので、助成金利用の動機付けとしてももっと活用していきたいと思っています。
――この診断を受けた方のご意見などは?
日向 昨年の9月に、これまでのソーラー診断受診者にアンケートをとったのですが、太陽光発電システム設置のメリットだけでなくデメリットも理解できたとか、設備投資金額の概算と助成金額が理解できたという声がありました。太陽光発電はかなり普及してきたとはいえ、まだまだ高額商品ですから、設置に関しては躊躇する方も多いのだと思います。
――この「ソーラー診断」事業は、「たいとうストップ温暖化プロジェクト」事業の一環として進められているそうですが、他にもいろいろな関連事業が実施されていますね。
日向 はい。大きくは、事業所向けと家庭向けに分かれています。台東区には2万社を超える事業所があるといわれていますが、その中でいわゆる大企業といわれるのは10社程度*1で、商店などを含めた中小企業がほとんどです。
*1 台東区内の事業所におけるエネルギー使用量が原油換算で1,500kl以上の事業所の数
我が社のCO2ダイエット宣言
宣言証ステッカー
こうした事業所向けに、「我が社のCO2ダイエット宣言」という省エネに取り組む事業所の認定事業を進めています。これは、その事業所独自の取り組みや、区が用意するメニューの中から実践可能な取り組みを選んで、ダイエット宣言書を出した上で、事業所での6月から9月までの電気やガスの使用量を区に報告してもらうことになっています。この宣言をすると、省エネ診断、省エネ設備導入の際に補助金が受けられるなどのメリットがあります。取り組みが優れている事業所を表彰する制度も実施しています。
もう一つが「環境経営推進支援制度」です。この支援制度は、先ほどの三つの省エネ専門家派遣制度と、「助成金制度」で構成されています。この助成金には「環境経営推進助成金」と「各種助成金」があります。「環境経営推進助成金」では、省エネ診断で提案された設備を導入する場合と、太陽光発電システムを導入する場合に助成金が受けられます。「各種助成金」は、窓や外壁等の遮熱・断熱改修、高反射塗料(遮熱塗料)、雨水貯留槽、屋上や壁面緑化などの施工に対する助成金です。
――家庭向け、いわゆる個人宅や共同住宅向けの事業はいかがでしょう。
日向 家庭向けの「我が家のCO2ダイエット宣言」という事業や環境MVP、それとやはり利用者が多いのは各種助成金制度ですね。「我が家のCO2ダイエット宣言」は、家庭生活の各場面でできる省エネ行動をチェックし、温暖化防止に向けての宣言をしてもらうものです。環境MVPは、夏期の電気、ガスの省エネの結果を募集し、成績が優秀な方を表彰する制度です。毎年11月に表彰式と記念講演会も開催しています。
我が家のCO2ダイエット宣言 省エネアクションステッカー (クリックで拡大) |
環境MVP表彰式の様子
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――家庭向けの助成制度にはどんなものがあるのでしょう。
日向 家庭用燃料電池(エネファーム)、太陽光発電システム、マンションなど共同住宅の共用部用LED照明などがあります。あとは事業所と同様に窓や外壁等の遮熱・断熱改修、高反射塗料(遮熱塗料)、雨水貯留槽などです。
補助率や補助の上限金額はそれぞれ異なりますが、補助制度の中で一番利用されているのが遮熱塗料です。昨年度は58件の申請がありました。次いでエネファームも多く34件、窓・外壁等の遮熱・断熱改修は23件です。遮熱塗料の件数が多い要因としては、比較的手軽で、効果もすぐわかるからだと思います。
――今回は「無料ソーラー診断」を中心にお話を伺いました。本事業の課題や今後の展開についてお聞かせください。
日向 家庭向けの助成金はほぼ毎年、予算執行率が9割を超えており、多くの区民の方々にご利用いただいています。それがどのように温暖化防止に役立っているかが、今後重要になってきます。太陽光発電システムについては、まずは過去の助成金申請者の分析を行い、区内のどの地域の普及が進んでいるか、また逆に普及が進んでいない地域を把握して、今後区内のどの地域を重点的に普及啓発していけるかなどについて検討していく必要があります。
また、東京都の東京ソーラー屋根台帳をさらに活用していくなど、さまざまな観点から太陽エネルギー機器の普及啓発に努めていきたいと考えています。
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