「自給率向上」に向けた日本のエネルギー政策の変遷
日本は、1973年のオイルショック以降、供給能力と価格の安定性を確保するためにエネルギー自給率の向上に取組んできた。手段は「省エネ」「再エネ」、そして「原子力」と10電力の「地域独占体制」。しかし、2011年、東日本震災と原発事故(3.11)が発生し、原子力政策は見直され、地域独占体制は電力自由化へと変遷した。
再生可能エネルギーの最大限の導入
震災後の2015年7月、経済産業省より発表された「長期エネルギー需給見通し」では、再エネを最大限導入し、2030年に22~24%程度まで拡大された需給構造が見込まれた。また2012年からは「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」が開始され、固定価格による長期買取によって新規電源の普及拡大が図られている。
※経済産業省「長期エネルギー需給見通し」「なっとく!再生可能エネルギー」を元に作成
電力システム改革
震災を契機に明らかになった課題に対し、旧一般電気事業者(10電力)による地域独占体制を見直し、様々な事業者の参入や競争、全国レベルでの供給力の活用、需要家の選択によるスマートな消費など、より柔軟なシステムにより、電力の低廉かつ安定的な供給を一層進めるため、送電インフラの整備運用や電気事業のルール改訂等が行われています。
※経済産業省「電力システム改革の概要」を元に作成
次世代に向けた変革の波:3つのD
制度改変以外にも、エネルギー業界に「3つのD」と呼ばれる変革の波が押し寄せています。電力・ガス・水道などの公益事業がこうした変革に対応するためには、既存の業界区分に留まることなく、自治体も含めた多様な主体が関わることが求められます。また次世代の公益事業については、「Utility (ユーティリティ) 3.0」と呼ばれ、変革後の将来像が描かれています。
※ IRENA「新たな世界」
※上記3点に加え、「人口減少(De-population)」「自由化(De-regulation)」を含めて「5つのD」と呼ばれることもあります。
分散型エネルギーシステム
「分散型エネルギー」とは、比較的小規模で、かつ様々な地域に分散しているエネルギーの総称です。これらを活用し、地域の特性や需要の形態等に合わせた分散型エネルギーシステムを構築することで、「より高度な3E+S」を目指すことが「第5次エネルギー基本計画」(2018年7月)で言及され、これに沿った補助金等の支援施策が数多く実施されています。
「より高度な3E+S」実現のため、地域がエネルギーのプレイヤーに
※経済産業省「分散型エネルギーシステムの構築に向けた取組」を元に作成
GIOの分散型エネルギーシステム構築ガイドブックにて、事業企画の詳細なガイドラインを閲覧できる。
※資源エネルギー庁「グラフで見る世界のエネルギーと「3E+S」安定供給②」
多発する激甚災害
気候変動による異常気象の増加に伴い、世界中で関連災害が激甚化・頻発化しています。こうした状況から、電力供給体制等の社会インフラの「強靭化(レジリエンスの強化)」が課題となっています。日本でも、東日本大震災などの地震災害だけでなく、 台風等の風水害も激甚化・頻発化しており、気候変動の「緩和策」と同時に、こうした災害への「適応策」も求められています。
地震や風水害を中心とした近年の日本の被災状況
台風・豪雨といった風水害や、地震の発生によって、近年頻繁に大規模な停電が発生しています。近年の災害に伴う停電軒数は、2011年の東日本大震災で約870万軒。2016年熊本地震では約48万軒。2018年は台風21号で約240万軒、台風24号で約180万軒、さらに北海道胆振東部地震で約295万軒。そして2019年、台風15号(令和元年東日本台風)では93万軒。なお「電気設備に関する技術基準を定める省令」では、送電線の鉄塔に対し風速40mに耐えられるよう求めているが、台風15号は千葉県下で最大瞬間風速が57.5mと観測史上最大を記録。実際に鉄塔2基・電柱1,996本が折損・倒壊する被害が発生している。この災害下でも、千葉県睦沢町で敷設した自営線は、自立したエネルギー供給を実現している(詳細はこちら)。
年々水災害による被害総額は増加している。(国土交通省)
経済産業省「令和元年に発生した災害の概要と対応」より千葉県君津市で倒壊した鉄塔の写真
世界の気候変動関連災害の状況
世界でも気候変動によって大規模災害が頻発している。スイス再保険のレポート(「シグマ2021年 第1号」図15 1970~2020年の災害による保険損害額)によると、2011年も気候変動関連の被害総額が東日本大震災の被害額を超えている。今後、突発的な地震災害だけでなく、気候変動によって定常的に被害が発生する可能性があり、適応策が必要となる。2021年2月には、米国テキサス州を記録的な大寒波が襲い、発電源の凍結などで需給がひっ迫。同州の送配電事業者は輪番停電に踏み切り、最大約450万軒が停電している(詳細はこちら)。同州は歴史的に共和党の地盤で、石炭・天然ガスなどの化石燃料事業に積極的だが、この大寒波被害を受け、再エネやマイクログリッドといった分散型エネルギーも推進するべきとの世論が急速に高まっている。
分散型エネルギーの主役としての推進体制
国の制度設計等により、自治体がエネルギー分野の主役となり、分散型エネルギーシステムの構築を推進することが望まれています。また電力事業者側からも、積極的に自治体などの地域主体へ連携を呼びかけるようになっています。こうした案件が持ち上がった際にも、電力事業者との「交渉」と「協調」を実現し、チャンスと捉えていけるような組織体制を構築しましょう。
当センターでは、小売電気事業者として蓄積した再生可能エネルギー由来のFIT電気の供給実務のノウハウを基に、再生可能エネルギーの割合が高い電力を供給する新電力の設立検討される自治体等に対し、新電力設立検討のためのノウハウ本「再エネを活用した新電力 虎の巻」を配布しています。
(詳細はこちら)